榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

58四半期連続増益を実現した男の経営術・・・【リーダーのための読書論(28)】

【医薬経済 2009年7月1日号】 リーダーのための読書論(28)

戦い続ける経営者・柳井正が「これが私の最高の教科書だ」と言うだけあって、『プロフェッショナルマネジャー――58四半期連続増益の男』(ハロルド・ジェニーン、アルヴィン・モスコー著、田中融二訳、プレジデント社)は、読後に確かな手応えが得られる本だ。

貧しい境遇から這い上がり、米国のコングロマリット(多国籍企業)・ITT(インターナショナル・テレフォン・アンド・テレグラフ・カンパニー)の最高経営責任者(CEO)に就任したハロルド・ジェニーンは、58四半期(実に14年半)に亘って連続増益を成し遂げ、売上高と利益を約20倍に伸ばした凄腕の経営者である。

ジェニーンは、いかにしてこのように驚異的な業績を上げることができたのか。ジェニーンを師と仰ぐ柳井が、巻末の解説で、ジェニーンの経営術のエッセンスを要領よく紹介している。①経営の秘訣――まず目標を設定し「逆算」せよ、②部下の報告――「5つの事実」をどう見分けるか、③リーダーシップ――現場と「緊張感ある対等関係」をつくれ、④意思決定――ロジカルシンキングの限界を知れ、⑤部下指導法――「オレオレ社員」の台頭を許すな、⑥数字把握力――データの背後にあるものを読み解け、⑦後継ぎ育成法――「社員FC制度」が究極の形だ、の7つである。

ジェニーンは自分がビジネスに成功した秘訣を、「本を読むときは、初めから終わりへと読む。ビジネスの経営はそれとは逆だ。終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ」と記している。なんのかんのと言っても、結局、企業とその最高経営者と経営チームの全員は、業績というただ一つの基準によって評価される。スピーチも、昼食会も、晩餐会も、会議も、公共への貢献も、有力者や要人たちとの親密な関係も、すべて遠く忘れ去られ、残るのは、ただ企業とその業績の記録だけだ、と喝破している。

良い経営とは、問題が起こったときにそれを解決するだけではない。良い計画は、将来起こりそうな問題の予見と、それらを回避するためにとるべき手段と、事前に回避することができなかった場合には、直ちにそれらを処理する方策を包含していなくてはならない。良いマネジャーは経験から学び、一つの企業なり事業部を統率するようになったときには、やって効果のあることと、ないことを嗅ぎ分ける一種の第六感を身につけていなくてはならない、とも言っている。

決定は、とりわけきわどい決定は、マネジャーが、そしてマネジャーのみが行わなくてはならない。ある計画なり、部なり、企業なりの統率者は、そのために給料をもらっているのである、は正に至言である。

ジェニーンが打ち立てた業績は偉大だが、彼の考え方、行動はさらに素晴らしい。目標を設定し、必ず達成するぞという不断の努力、課題解決に成功するまで挑戦し続ける粘り強さ、困難に敢然と立ち向かうことによって、失敗の経験からも多くのことを学べるという前向きな姿勢、重要な課題には、権限委譲せず自ら向き合う強烈な責任感――に私たちは惹きつけられるのだ。これに、情報が共有されているため、スピーディな課題発見と解決が可能な組織、命令によらずに、見事な一体感を生み出す彼のリーダーシップが加わるのだから、鬼に金棒である。