榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「仮説思考」と「論点思考」、どちらが、より重要なのか・・・【リーダーのための読書論(43)】

【医薬経済 2010年10月1日号】 リーダーのための読書論(43)

敬愛するN先輩から『思考のレッスン』(丸谷才一著、文春文庫)を薦められた時は、正直言って、困惑してしまった。なぜならば、丸谷才一がジェイムズ・ジョイス大好き人間であり、丸谷訳の『ユリシーズ』を悪戦苦闘の末、読み終えたものの、どうしてもこの小説を好きになれなかったという苦い経験をしていたからである。

ところが、この『思考のレッスン』には、考えるためのヒントが詰まっていたのである。丸谷式考え方のこつを私なりに5つにまとめてみよう。①先ず大事なのは「問いかけ」である。つまり、「いかに、よい問いを立てるか」ということ。他人から与えられた問いではなく、自分自身が発した問いであるべきだ。②定説と違っても構わないと「度胸」を決めて考える。③考える際は「比較と分析」を行う。比較によって分析が可能になり、分析によって比較が可能となる。④「仮説」は大胆不敵に立てる。その際は自分の直感と想像力を信頼することだ。⑤仮説を検討するときは「大局観」を重視する。

仮説思考――BCG流 問題発見・解決の発想法』で一世を風靡した内田和成が、「仮説思考は問題解決に効率的・効果的であるが、その前に、その解こうとしている問題そのものが<正しい問題>か否かを知ることのほうが、より重要」と主張していると耳にした時は、正直言って、びっくりした。そこで、『論点思考――BCG流 問題設定の技術』(内田和成著、東洋経済新報社)を読んでみたところ、噂どおりだったのである。

真の問題、解くべき問題のことを「論点」という。そして、論点を設定するという、問題解決の最上流に当たるプロセスが「論点思考」だというのだ。すなわち、「問題設定→解決策の立案・提示→実行→問題解決」という流れである。ピーター・ドラッカーの「経営における最も重大な過ちは、間違った答えを出すことではなく、間違った問いに答えることだ」という言葉を引いて、最初の論点設定を間違えると、間違った問題に取り組むことになるので、その後の問題解決の作業をいくら正しくやったところで意味のある結果は生まれない、と述べている。その結果、論点設定に戻ってやり直すことになる。従って、短期間で答えを出すためには最初の論点設定が極めて重要になる、というのだ。

企業は数え切れないほど多くの問題を抱えていて、それら全てを解決しようと思っても、時間もなければ人も足りない。成果を上げるには問題選びが大切だ。解いて効果の上がる問題がよい問題なのだ。そこで問題に優先順位をつけて、1つか2つに絞った上で問題解決を図る。論点を設定する際に、著者は3つのポイントで問題を検討する。①解決できるか、できないか。②解決できるとして実行可能(容易)か。③解決したら、どれだけの効果があるか。

論点思考力を高めるために、著者は次のことを勧めている。①問題意識を持って仕事をすること。課題は何かと常に考えている人と、ただ与えられた課題の答えを探している人とでは、大きな差がついてしまうからだ。②与えられた課題に疑問を持つこと。この場合、2段階上のポジションに就いているつもりで、ものを考えると、自分が今、抱えている課題、すなわち論点がより明確に浮かび上がってくる。そして、よい論点が選択できれば、時間の使い方が変わる。読む本が変わる。会うべき人が変わってくる。③自分のアイディアの引き出しを増やすこと。