榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

病院で11年、診療所で6年、MRに接してきたドクターの本音を聴こう・・・【続・リーダーのための読書論(13)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2012年3月2日号】 続・リーダーのための読書論(13)

ドクターの本音

MRにとって、ドクターの本音を聴取できるチャンスは、そうそうあるものではない。この意味で、『ドクターは、そう考えないよ――ドクターとMRのギャップを埋める10枚の処方せん』(染谷貴志・川越満著、セジデム・ストラテジックデータ株式会社ユート・ブレーン事業部)は貴重である。

都内の基幹病院でドクターとしてのスタートを切り、11年間、研鑚を積んだ後に、診療所の院長に転じて6年、計17年間、MRに接してきた体験に裏打ちされた著者の語り口は辛口だが、傾聴に値する。

診断・処方せん・指導せん・服薬指導

ドクター(染谷)がMRのよくある「症状」(習慣)に対して「診断」し、「処方せん」(ギャップを埋める解決策・考え方)を提示する。ケースによっては「指導せん」も付ける。その処方せんを調剤薬局(川越)が受けて「服薬指導」(処方せんに書いてある内容を、さらに深く考えて実行するためのアドヴァイス)を行う――という形で、話が進行していく。

例えば、「担当するドクターに講演会や勉強会への出席を依頼しても、参加してもらえない」という症状に対する処方せんは、「ドクターが求めているのは、明日からの臨床に活かせる『生きた講演会』」となっており、「先生は、どんな講演会なら参加したいと思いますか?」と聞いてみては、と提案している。そして、服薬指導では、「まず、ドクターの行動パターン(ドクターのスケジュール・動線)の把握」を勧めている。

「定期的に訪問しても、ドクターに認知してもらえない」という症状には、「●その診療所は、どんな問題を抱えているのか? ●どんな情報を必要としているのか? ●どうすれば自分が役に立てるだろうか?」といった視点を持って訪問しては、という処方せんが出されている。

「ドクターとの面談の際、製品コールしかできない」という症状には、MRが自分の魅力や強みは何なのかを分析し、それをドクターにどうアピールしたら効果的か考えてみては、と提言している。

今後のMR活動

「接待に関する規制が厳しくなることを、ピンチと捉えるか、チャンスと捉えるかで、今後のMR活動に差が出てくる」、「自分のMR活動が、地域の医療の発展に役立つことができる、そう考えて仕事をするのと、ただ自社製品の処方を増やす目的だけで仕事するのとでは、モチヴェーションが違ってくるのでは」、「facebookが凄い広がりを見せているが、こうした実名で情報発信をするサイトがこれから充実してくると、今のeーdetailingと呼ばれている仕組みは廃れていくのでは」という指摘には、思わず耳をそばだててしまう。

一方、「自分が明日から動けない状態になったら、家族やスタッフはどうなるんだろう。明日から患者が一人も来なくなったらどうしよう」、「勤務医の時には他のドクターと触れ合い、情報交換することができたが、開業医は結構孤独。治療に関しても、いろいろ有益な情報を求めている」という述懐からは、著者の人間味が伝わってくる。