榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

若き起業家が成功を勝ち取るまでの苦闘物語・・・【続・リーダーのための読書論(38)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2014年2月28日号】 続・リーダーのための読書論(38)

若者の起業物語

起業家』(藤田晋著、幻冬舎)を読んで、著者の藤田晋を好きになってしまった。それには、3つの理由がある。第1は、その正直さである。自分にも他人にも、とことん正直なのだ。第2は、軸がぶれないことである。起業家としても、経営者としても、そして、友人に対しても、これほどぶれない人物は珍しい。第3は、犯した失敗の経験を次に生かしていることである。企業経営においても、自らの人生においてもしかりである。

この本は、起業を成功させるヒントが詰まったビジネス書であると同時に、若き起業家の疾風怒涛のビルドゥングスロマン(成長物語)である。さらに、堀江貴文との友情物語でもある。

上場を果たした直後は、「こうなってしまった原因を誰かに擦り付けて、お互いに不信感を募らせていく。当時は社内もお互いを信用していないし、私から見ても、いつ誰が会社を裏切ってやめてしまうか分からない、そんな猜疑心に満ちた雰囲気でした」。

「『社員を大切にする会社に変わろう!』 そんな思いで私たちは、『(辞めずに)長く働くことを奨励する会社になる』という方針を打ち出しました」。ここから著者の会社、サイバーエージェントは大きく変わっていったのである。「サイバーエージェントに基盤となる考えが固まり始めたと同時に、私の中に、経営者としてブレない軸が生まれたのもこの頃でした。変化が激しい業界に身を置き、自分たちも変化し続けなければいけないからこそ、何より『軸』が必要でした。それを手に入れたのです」。やがて、「疑心暗鬼が渦巻き、社内には対立しか存在しなかった数年前からは想像できないほど、逞しくなっていたサイバーエージェントの姿がそこにはありました」。さらに、「しだいに(会社成長の鍵となる)アメーバ(部門)は(売上高でなく)ページビュー至上主義の組織に生まれ変わっていきました」。

ライヴァル堀江貴文

「堀江さんは20代半ばに初めて出会った頃から、ネットの世界に止まらず、宇宙開発に関心を持ち、政治や社会、サイエンスに至るまで幅広く精通していて、とても広い視野の持ち主です。頭の回転も速く、私は今まで堀江さんより頭が良い人に会ったことがない気がします」。その後、ライブドアの急激な躍進ぶりに接して、「初めて同世代の経営者(=堀江)に嫉妬心を抱いたのもその頃です」。堀江の逮捕については、「人とは違う生き方をする者への、世間からの冷たい仕打ちを目の当たりにしたような気がしたのです」。「堀江さんは、同じ時代を共にゼロから会社を創って頑張ってきた戦友ともいえる友人です」。堀江が保釈された翌日、藤田の部屋で二人だけの会食。「長期にわたる厳しい取り調べと、独房生活で対人恐怖症みたいになっていたようで、堀江さんは私の自宅に来た直後はなんだか様子が変でした。それでも、美味い鮨を食べているうちに、しだいに平静さを取り戻していきました」。堀江の「本とか差し入れてくれる人が多いんだけど、座布団と一輪の花が嬉しかった」という言葉が印象深い。

「希望を抱き、みんなを勇気づけ、不可能を可能にしていくのが起業家です」。