榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

大局観を持つと、ビジネスの世界ががらりと変わって見える・・・【あなたの人生が最高に輝く時(34)】

【ミクスOnline 2013年12月20日号】 あなたの人生が最高に輝く時(34)

大局観と初動が重要

仕事の大事は5分で決まる――プロ外交官の仕事術』(宮家邦彦著、幻冬舎)の中に、「ノウハウは同業者から、アイディアは異業種から盗め」という一節がある。この本は、著者がキャリア外交官としての27年間に身に付けた仕事術をまとめたものだが、彼の台詞どおり、外交官でない我々にも大いに役立つアイディアが目白押しである。

本書で、著者が一番言いたいことは、「大局観を持て」と「全ては最初の5分間で決まる=初動が重要」ということだろう。

大局観を持つために必要な情報の入手法(人脈術)、人脈を生む語学力(語学術)、語学を駆使した交渉法(交渉術)、一味違う発想力と発信力(メモ術とプレゼンテーション術)、情報の分析法(発想術)、情報の選択法(情報術)、緊急事態の対処法(危機管理術)について述べられている。「その目的はただ一つ、これらの技術を実際のビジネスに応用することです」。

人脈術

人脈作りの「チャンスは一回だけと割り切ろう」とあり、「もう一度会ってもらうためのシンプルなこと」が紹介されている。「要するに相手に、『こいつと会うと、色々勉強になる』と思わせることが重要なのです。これで相手とあなたとの再会が実現する可能性は飛躍的に高まるでしょう」。ルート・セールスであるMR活動においても、これは鉄則である。

「もしあなたが大局的な視点を磨きたいのなら、古い友人を通じた『定点観測』の重要性を強調したいと思います」。仕事の大事は最初の5分間で決まる。先を読むには「本筋」を見極める「大局観」が必要であり、「大局観」を持つには、その時々の細かな動きではなく、より大きな大筋を見極める必要があるというのだ。新しい情報は確かに魅力的だが、その多くは時々のエピソードに過ぎず、それに振り回されてばかりいては、いつまで経っても「本筋」は見えない。

そして、「友人は狭く、深く、死ぬまで付き合う」というのが著者の信条だが、これもドクターとの付き合い方に通じるものがある。こういう付き合いをするためには、人間学を磨く必要があるのは言うまでもない。

語学術

語学術については、外交官だっただけに、アドヴァイスが実践的かつ具体的である。「聞き流しても英語は上達しない」、「語学とは8割の暗記と2割の応用」、「流れるように英語を喋りたかったら、喋る英語の一つ一つのフレーズを完全に暗記する必要があるのです。逆に、一度暗記さえすれば、覚えたフレーズの順列・組み合わせをちょっと変えるだけで、新しい場面や状況にも十分応用することが可能になります。これが英会話のポイントなのです」、「わずか数百種類しかない基本フレーズを完全暗記すれば、外国人と同じようにかなり流暢に英語が喋れるはずなのです」。そして、留学や英会話学校は必要ないと断言している。何とも、勇気づけられる発言ではないか。

メモ術

メモについては、「私個人の経験では、『発想』といっても、全ては、人の話を聞いたり、本を読んだりして浮んだ小さなヒントを丹念にメモすることから始まったと思っています。幾つかの小さな発想が集まったところで、初めて一つの仮説を作ることができ、その上で少しずつ人とは違う『大局観』のヒントが見えてくるのだと思うのです」と言っている。「私のベッドの枕元には必ずメモ帳とペンを置くようにしています。突然新しい発想が浮かんだ際、ベッドの中で『瞬間冷凍』することに成功しているので、馬鹿にできません」。メモ魔の私としては、全く同感である。ベッドの中で書き付けたメモのおかげで、困難な状況を打開できたことが何度もあるからだ。

発想術

発想術に関し、相手の立場になって考えてみることを勧めている。外交官時代の著者は、よく地図を逆さにして見ていたそうだ。「普通、地図は北が上で、南が下と決まっていますが、それでは新しい発想は生まれません。しかし、これを180度ひっくり返して逆さにしてみてください。そうすると、意外や意外、今まで見えなかったものが、しっかり見えてくるから実に不思議です」。早速、試みたところ、本当に違う世界が見えてくるではないか。地図にとどまらず、この方法を応用することによって、顕在的あるいは潜在的競争者の視点に立って状況を眺め直すことができるのだ。

情報術

情報術では、「問題は情報の不足ではありません。むしろ、情報は腐るほどあるのです。大局観を養う能力とは、大量の資料・データの中から、必要にして十分な『真の情報』を探し出す能力に他なりません」と語っている。まさに、そのとおりである。溢れ返る情報に溺れ、肝心要の情報を見失っている人のいかに多いことか。