榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

がんに罹ったら、保険が適用される標準治療を選択すべき・・・【MRのための読書論(172)】

【ミクスOnline 2020年4月20日号】 MRのための読書論(172)

3人の専門家

世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』(津川友介・勝俣範之・大須賀覚著、ダイヤモンド社)は、医療データ分析の専門家、がん治療に特化した腫瘍内科医という専門医、新薬開発の専門家――の3人の共著である。本書は、一般の人々に、代替療法でなく、標準治療を受けるよう勧めることを主目的としているが、医療関係者にとっても参考になることが書かれている。

標準治療

「読者の皆さまは。ぜひ『保険が適用される治療法』(『標準治療』と呼ばれる治療法)を受けてください。実はこれが、最も効果が期待できる最高のがん治療法だからです」。「保険適用の治療法が最高と言える最大の理由は、効果があるかどうかを徹底的に調べ抜かれているからです」。一方、「クリニックなどで保険外で行われている自由診療や、病院外で行われている民間療法などは『代替療法』と呼ばれ、科学的根拠がないものがほとんどです」。

2018年に、標準治療と代替療法の治療成績の比較が示されている(J Natl Cancer Inst;110(1),121~4)。「大腸がんの患者さんにおいては、6年が経過した時点で、標準治療を受けたグループの生存率は80%なのに対し、代替療法のみのグループは約35%の人しか生存していませんでした。この研究は、標準治療を受けずに代替療法を受けているがん患者さんほど、生存率が低いという事実を明らかにしています」。

3大治療

「がんの標準治療は、①手術、②放射線治療、③抗がん剤治療の3つで構成されています。この3つをまとめて『3大治療』と呼びます」。

「抗がん剤は、殺細胞薬、分子標的薬、ホルモン療法薬に分類されます。そのうちの分子標的薬が登場したことで、今まで治療が難しかったがんにも効果を発揮できるようになりました。・・・分子標的薬は、がん細胞の増殖などに関わる特定の分子だけを狙い撃ちにします。・・・21世紀になって分子標的薬の開発が進み、2020年3月現在、70種類以上の分子標的薬が世界で承認されています。・・・(分子標的薬の1つである)オプジーボは、免疫を抑制する機能をもつ分子(PD-1)をターゲットにしています。そのため『免疫チェックポイント阻害薬』と呼ばれます」。

「標準治療の1つとして、忘れてはいけないものに緩和ケアがあります。緩和ケアとは、がん患者さんの痛みや苦しみを和らげる治療のことです。緩和ケアには、治療的な効果はないと長らく考えられていました。・・・そんな中、2010年に世界で最も権威のある医学雑誌の1つ『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に衝撃的な論文が発表されました。緩和ケアに延命効果が認められたのです(N Engl J Med;363(8):733~42)」。「早期に緩和ケアを導入することは、延命効果をもたらしただけでなく、メリットの少ない終末期の抗がん剤を減らし、生活の質も向上させたのです。・・・緩和ケアが進行がん患者さんに対して生活の質を高めるという科学的根拠は明らかであり、がんの標準治療の1つと考えてよいのです。・・・2012年6月に見直されたがん対策推進基本計画で『がんと診断された時からの緩和ケアの推進』が重点事項に位置づけられました」。緩和ケアは、決して最後の手段ではなく、第4の治療法だと、著者は強調しているのだ。

がんのステージ

「がんのステージは、腫瘍の大きさ(T分類)、リンパ節に転移したかどうか(N分類)、最初に発生した腫瘍から遠く離れた部位(遠隔臓器)に転移したかどうか(M分類)という3つの要素で決まります。分類の方法は、がんの種類ごとに詳細に決められており、国際対がん連合(UICC)によるTNM分類という国際的な方法で統一されています。一般的に、ステージⅠ、Ⅱの段階を早期がん、ステージⅢ、Ⅳの段階を進行がんと呼びます」。

ドラッグ・ラグ

「標準治療として承認された治療法には、保険が適用されます。ただ一部には、海外で先に承認されたけれど、日本ではまだ承認されていないものがあります(国内未承認薬)。以前は、この海外と日本の間の承認の遅れ(ドラッグ・ラグ)が何年もの規模で発生することがありました。しかし、実は最近ではこのドラッグ・ラグは、ほとんど解消されています。・・・2006年度のドラッグ・ラグが2.4年だったのに対して、2017年度は0.4年と大幅に改善しています」。

信頼できる情報源

科学的根拠に基づいて、がん治療について解説しているウェブサイトが8つ挙げられている。
●国立がん研究センター「がん情報サービス」
●米国国立がん研究所がん情報サイト PDQ 日本語版
●海外がん医療情報リファレンス
●キャンサーネットジャパン
●静岡県立静岡がんセンター「処方別がん薬物療法説明書」
●日本放射線腫瘍学会
●日本緩和医療学会「患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド」
●国立がん研究センター中央病院「生活の工夫カード」