榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

17世紀のメキシコに、時代を先取りした才色兼備の作家・修道女がいた・・・【山椒読書論(24)】

【amazon 『知への賛歌』『ソル・フアナ=イネス・デ・ラ・クルスの生涯』 カスタマーレビュー 2012年4月11日】 山椒読書論(24)

17世紀末のメキシコの宗教的な抑圧社会の只中で、時代を先取りし、目覚ましい活躍をした才色兼備の作家(詩人)がいたことを、『知への賛歌――修道女フアナの手紙』(ソル・フアナ著、旦敬介訳、光文社古典新訳文庫)で知り、びっくりした。

ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルス(「十字架の修道女、フアナ・イネス」を意味する宗教名)がメキシコを代表する女性であることは、200ペソ紙幣に彼女の肖像が描かれていることからも知れる。

その文学的才能のため、宮廷の権力者たちからかわいがられていたフアナは、17歳の時、自ら修道女となり、以降、43歳で亡くなるまで、修道院から一歩も出ない生活を送るのである。宗教(カトリック)に特に熱心というわけではなかった彼女が修道女という道を選択したのは、「修道院に入れば、結婚に伴うさまざまな不快事を避けることができ、日々のスケジュールで定められた必要最小限の宗教的勤めさえ果たせば、後は自由時間を勉強なり詩作なりに使うことができる」と考えたからだというのだから、この決断にも驚かされる。

この本には、抒情的な詩10篇と、2つの長文の書簡が収められているが、「告解師への手紙」と「ソル・フィロテアへの返信」の内容の大胆さ、率直さに、またまた驚かされることになる。

彼女は、これらの手紙の中で、当時、女性に課されていた社会的制約の理不尽さを告発し、女性であっても知的活動・文学活動に携わりたいのだと強く訴えている。そして、男性に依存せずに生きる女性の生き方や、生前からほぼ全ての作品が全集として刊行されるという名声を得たが故の苦痛、苦悶、孤独にも言及している。

司教という聖職高位者に対しても、相手に対する敬意を装いながら、ぞの実、臆することなく、堂々と自己主張を貫いているところに、フアナの意志の強さと勇気が如実に表れている。

フアナについて、さらに知りたい向きには、『ソル・フアナ=イネス・デ・ラ・クルスの生涯――信仰の罠』(オクタビオ・パス著、林美智代訳、土曜美術社出版販売)がある。