榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

アメリカ南部における黒人奴隷の実態が白日の下に・・・【山椒読書論(196)】

【amazon 『マンディンゴ』 カスタマーレビュー 2013年6月2日】 山椒読書論(196)

1975年公開の映画『マンディンゴ』について知人がfacebookに投稿しているのに触発されて、その原作の『マンディンゴ』(カイル・オンストット著、小野寺健訳、河出書房新社、全2巻。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を書棚から引っ張り出したのだが、37年ぶりに最終ページまで読み返してしまった。

南北戦争の直前、アメリカ南部、アラバマ州のトムビッグビー河沿いにファルコンハースト・ファームという棉花の大農場があった。この農場の本来の事業は200人の黒人奴隷を使用しての棉花栽培であったが、老農場主ウォレン・マクスウェルは疲弊して収穫力の落ちた土壌に見切りをつけ、当時、輸入禁止によって価格が暴騰していた奴隷の飼育へと大きく舵を切っていた。次から次へと女奴隷たちに子を産ませ、その子供たちをまとめて家畜小屋で飼育し、成熟すると売り捌くという奴隷繁殖ビジネスに精を出していたのである。

女奴隷に子を産ませるのは男奴隷だけでなく、農場主父子の務めでもある。従って、誕生するのは純血の黒人だけでなく、2分の1混血、4分の1混血、8分の1混血などさまざまで、中には白人と見間違えるような白い肌の者もいるが、黒人の血が一滴でも混じっていると奴隷として扱われるのである。

この農場で展開される物語は、農場主一家と奴隷たちを巻き込んで残酷酸鼻な結末を迎えるのだが、『風と共に去りぬ』や『アンクル・トムの小屋』に描かれた世界などとは比較にならないほど過酷な奴隷制度の実態が白日の下に晒されていることに強い衝撃を受けた。

農場主と息子ハモンドの会話――「うん、じつはブラウンリーさん(奴隷商人)は3匹若いのをつれてきたのだ。15くらいの雄が2匹と、かわいい小さな黄色い雌だ」、「むこうのうまやにつないであるのを見ましたよ。で、お父さんはそれと例の2匹の雄とを交換したんでしょう?」、「朝になってもビッグ・パール(女奴隷の名)がよくならなかったら、あいつを騾馬にのせてベンソンの獣医のところまでやります」。

「美しい動物の鑑識家としての彼(ハモンド)にとってはビッグ・パールは自慢の種で、非の打ちどころのないこの黒人の美しい身体を白人たちに見せてほめ言葉をきくのは楽しみだったし、彼女がゆったりと歩くところを見せ、その力を誇らしげに見せびらかすのも好きなら、まるで特選の雌馬でもいじるように彼女のすべすべとはりきった脇腹を撫でるのにも快感をおぼえた。しかし、彼女を人間と思ったことは一度としてなかったのである」。「黒人女は必要なときに白人が使うただの物であって愛情の対象ではない、命令するものであった」。

農場主の言葉――「ハモンドはあの男(ミードという名の奴隷)を例の2人の大女(ミードの母のルーシーと、ミードの妹のビッグ・パール)とつるませる(番<つがい>にする)んだ」、「畜生(奴隷)同士ならどうつながって(交尾して)も変わりゃせん、いずれにしてもこわがらせ、監視していなけりゃいかんのだ」。

「3人の白人は家畜小屋へぶらぶら行ってみた。(奴隷を)一人一人つれてこさせては、裸にして検査する」。「マクスウェル父子にとっては、彼ら(奴隷たち)は家畜だった。高価な、人間としては扱えない、飼育し大きくしていずれ売りに出す家畜だった」のである。彼らは、「もうけになるのは(棉花の収穫よりも)黒んぼの収穫のほうだ」と考えていたのだ。

この他、主人が逆さに吊るした男奴隷を仲間の奴隷に鞭で滅多打ちさせる場面、女主人が女奴隷を裸にして鞭を振るう場面、遠くに投げた棒きれを奴隷に犬のように拾ってこさせる場面などがリアルに描かれている。

映像で確認したい向きには、DVD『マンディンゴ』(リチャード・フライシャー監督、ジェームズ・メイソン、スーザン・ジョージ出演、IVC)がある。