榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

リーダーの発想と行動に関する最高のテクスト・・・【山椒読書論(225)】

【amazon DVD『八甲田山』 カスタマーレビュー 2013年7月20日】 山椒読書論(225)

暴風雪が荒れ狂う暗夜、零下20度の山中で道を見失ってしまったとき、あなたは正気でいられるだろうか。

明治35年1月、厳寒の八甲田山の雪中踏破訓練に挑んだ青森第5連隊は、参加者210名のうちの実に95%に当たる199名が凍死するという悲惨な結果を招いてしまった。一方、同一コースに逆方向から挑戦した弘前第31連隊が1名の犠牲者も出さずに踏破に成功したという事実は、私たちにいろいろなことを考えさせる。

第5連隊を率いた神成大尉(小説では神田大尉)と第31連隊を指揮した福島大尉(小説では徳島大尉)はどちらも優秀な将校と折り紙が付けられていたのに、雪中行軍の結果にこれほど大きな差が出てしまったのはなぜか。この問いに対する答えは、『八甲田山死の彷徨』(新田次郎著、新潮文庫)の中で解明されているが、それぞれのリーダーの判断と行動がもたらした失敗例と成功例が、これほど対照的に鮮やかに描かれた例をほかに知らない。

リーダーの判断(発想)と行動に厳しさが求められるのは、その結果が即、本人のみならず部下をも直撃するからである。八甲田山の事件は極端な例としても、いつなんどき、部下の将来を左右しかねない場面に遭遇するかわからないリーダーとしては、日頃から発想力と行動力に磨きをかけておくべきだろう。

原作に忠実に製作されたDVD『八甲田山』(森谷司郎監督、高倉健・北大路欣也出演、M3エンタテインメント)は、全篇、緊迫感に満ちており、リーダーの発想と行動に関する最高のテクストたり得ている。