榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「SWOT分析なんて知らなくたって、仕事はちゃんとできるぜ」と言っている君へ・・・【続・独りよがりの読書論(17)】

【にぎわい 2012年12月31日号】 独りよがりの読書論(17)

SWOT分析などのロジカル・シンキングと呼ばれる枠組みや技法を知らなくても、仕事はできる。それなのに、時間を割いてロジカル・シンキングを学ぼうとする人がいるのは、なぜか。これらの枠組みや技法を自分の力でゼロから考え出すことは難しいし、可能であっても、非常に時間を要するだろう。一方、これらの枠組みや技法を入れ物として上手に活用すれば、そこに入れる中身を充実させることに力を集中できるというわけだ。

ロジカル・シンキングの本は、それこそ学術書レヴェルのものから、ごく簡単な入門書まで、書店の棚にぎっしりと並んでいる。どうせ勉強するなら、これらをあれこれ読み散らかすのではなく、一冊をきっちりと読み込んだほうがよい。グロービスMBA集中講義シリーズの『[実況]ロジカルシンキング教室』(グロービス著、嶋田毅執筆、PHP研究所)は、ポイントのみが簡潔に示されており、文章量も多くないので、そう時間をかけずに読み通すことができる。

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ロジカル・シンキングを直訳すると「論理的思考」となる。すなわち、「筋道を立てて論理的に考えること」である。では、「論理的」とは、どういうことか。ロジカル・シンキングの基本ルールは4つに集約することができる――①結論はYES/NOを明確にする、②「なぜなら」「だから」で考える、③事実(ファクト)か意見かを見極める、④局所でなく、全体を見て「モレ」をなくす。

筋道を立てて段階的に判断していくときのポイントは、「●根拠―だから→結論、●結論―なぜなら→根拠」というように、根拠と結論を「だから」あるいは「なぜなら」で繋げることである。このどちらかのパターンで考えていくのだ。どんなに複雑で難しそうに見える論理展開であっても、順を追って考えていくと、全て「根拠―だから→結論」「結論―なぜなら→根拠」の積み重ねに過ぎないことが分かる。

因みに、根拠と結論を繋げる手法には、「演繹法」と「帰納法」の2種類のやり方がある。演繹法とは、事実や一般的な法則から結論を導き出すやり方で、「三段論法」が代表的なものである。一方の帰納法は、観察される複数の事実の共通項に着目し、結論を導き出すやり方である。

ロジカル・シンキングでいうところの「ファクト」とは、事実や皆が受け容れる自明の理、原理原則のことである。
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ロジカル・シンキングの代表的な5つの「型」を知っていると、速く正確に結論に到達することが可能となる。①MECE(ミーシー)/ロジック・ツリー、②マトリックス、③フロー図、④関係図、⑤仮説思考――が紹介されている。

モレなくダブリなく分解、分類することで、全体を把握したいときは、「MECE」が役に立つ。


MECEを意識しながら、1つのことをどんどん分解していくのに便利なツールが「ロジック・ツリー」である。ロジック・ツリーによって、複雑な問題をシンプルにすることができるのだ。


「マトリックス」は情報の整理や分析によく使われる型で、情報を2つの軸(切り口)によって図表化することで、複雑な内容が視覚的かつ直感的に頭に入ってくるようになる。この代表的なものが、「SWOT」である。SWOTはビジネスの成功要因や事業機会を導き出すために用いられる。「●内部要因でポジティヴな要素=自社の強み(strengths)、●内部要因でネガティヴな要素=自社の弱み(weaknesses)、●外部要因でポジティヴな要素=市場における機会(opportunities)、●外部要因でネガティヴな要素=市場における脅威(threats)」の4つの象限に分かれている。これを使うと、「我が社はこの強みを活かして、この機会をうまく獲得しよう」、「この弱みと脅威が重なると会社が傾きかねないので、今のうちに対策を考えよう」といったことを考えることができるのだ。


経営戦略を立てるために、SWOTをさらに進化させた「クロスSWOT」というフレームワークもある。


作業工程や因果関係などの動的な動きの全体を流れ(フロー)で捉え、構造把握や問題解決に役立てようというのが、「フロー図」である。


ビジネス・プランニングでよく使われる「関係図」の代表的なものが、「5つの力」である。これを使って「競合」「売り手」「買い手」「新規参入」「代替品」という5つの力を分析することで、業界の競争関係や収益構造の把握が容易になるのだ。


「仮説思考」は、「考えるプロセス」なので、上記の①~④のような目に見える枠はない。「論点・課題→仮説を立てる→仮説と適切な枠組みに沿った情報収集→仮説の検証・修正→よりよい結論」により、速く、よりよい結論に辿り着くことができるのだ。


ロジカル・シンキングで問題の本質を捉え、効率的に解決策を導き出すためには、4つのステップに沿って考えていくとよい――①問題の特定(問題設定)=What?(問題は何?)→②問題箇所の特定=Where?(どこが悪い?)→③原因分析=Why?(どうして悪い?)→④解決策の立案=How?(どうする?)。こうした段階をしっかりと踏んでいくことで、無駄な作業により時間を浪費することなく、効果的で実行可能な解決策を導き出すことができるのだ。著者は、「ロジカルシンキングを適切に用いれば、経験やそれに伴うセンスが多少不足していても、ある程度のアウトプット(効果的なコミュニケーションや問題解決)にたどり着くことができます。ロジカルシンキングは、最初はやや型にはまった効率化のための思考という側面を強く感じるかもしれませんが、上達してくると、それがセンスや創造性を生み出す土台ともなってくるのです」と結論づけている。