榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ファーブルの一生を追体験する旅の取材記録・・・【情熱的読書人間のないしょ話(90)】

【amazon 『NHK「ファーブル昆虫記」の旅』 カスタマーレビュー 2015年6月14日】 情熱的読書人間のないしょ話(90)

庭のアメリカノウゼンカズラが咲き出しました。円錐状で濃い橙紅色の花が数十咲いては、その日のうちに落ちる一日花です。2か月以上、落ちた花を毎日掃除する女房の手を焼かせるアメリカノウゼンカズラですが、蔓を伸ばして他の植物に絡みついて成長していくという逞しさは勉強になります(笑)。

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閑話休題、夏が近づくと、『NHK「ファーブル昆虫記」の旅』(山崎俊一・海野和男著、日本放送出版協会。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を読み返したくなります。

ジャン・アンリ・ファーブルが生まれ育ち、生涯、昆虫の観察・研究に没頭した南仏を訪ねた取材記ですが、美しいカラー写真と臨場感溢れる文章のおかげで、自分がファーブルになったような気分を味わうことができます。

「ファーブル昆虫記の背景となるミディ(南仏)をこの取材記で楽しんでいただこう。時は19世紀半ば、ナポレオン三世の第二帝政時代、ファーブル先生は大ローヌ川のほとりアビニョン中学の名物先生だった。馬蹄の音に包まれたこの古都にも、SLが走り、写真館が店開きし、パリからの文明が日々に新時代の到来を告げる騒然とした世相であった。『死んだ標本でなく、生きた自然を見る』というファーブル先生。『大西洋から地中海まで、動物を無益に殺し、傷つけている大研究所は数限りなくある。しかしどれだけの実績をあげているか。私の研究所は国民の税金は1フランも使っていない』と喝破したファーブル先生。これがハイカラで、革命的でなくて何であろう」。

『ファーブル昆虫記』の冒頭に登場するスカラベ(タマオシコガネ。いわゆるフンコロガシ)を追った写真の1枚には、こういうキャプションが付されている。「地中海沿岸の砂丘を太陽に向かって糞球を押していく。時には写真のように2匹でひとつの糞球を転がす。ただし一所懸命転がすのはたいてい1匹だ」。

「ファーブルの隠棲は、希望と喜びに満ちている。彼は1879年、7200フランの大金を投じて、セリニャンの村外れにある古い邸を手に入れる。56歳だった。幸い、パリのドラグラーヴ書店から出版した教科書類の売れ行きが好調で、ファーブルの決心に弾みがついたのであろう。セリニャンの村は、エイグ河の北岸にあって、土地は石ころだらけのやせ地であるが、耕やされてほとんど葡萄畑になっている。所々に酒倉が建ち、村のどこからもプロヴァンス第一の高山、ヴァントゥ山が見える。この邸を手に入れた喜びを、ファーブルは、『昆虫記』第2巻の冒頭で書いた。その弾んだ気持ちがありありと分かる一文である」。ファーブルはこの新しい土地で91歳まで生き、不朽の大著『昆虫記――昆虫の本能と習性の研究』全10巻を30年に亘って書き続けたのです。