榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

兵隊になるとは、自ら考え判断することを止めた奴隷になることだった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(761)】

【amazon 『ぼくと兄の日章旗』 カスタマーレビュー 2017年5月23日】 情熱的読書人間のないしょ話(761)

我が家の庭でも、散策中も、いろいろな種類のアゲハを見かける季節になりました。私の書斎では、人工のチョウが舞っています。庭の小さなバラが満開を迎えています。

閑話休題、『ぼくと兄の日章旗――兄から学んだこと』(中野孝次著、ポプラ社。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、子供向けの本ですが、大人にもぜひ読んでもらいたい本です。

兄を戦争で殺され、自身も兵隊にとられた経験を持つ著者の言葉は、説得力があります。「日本は先の太平洋戦争で何百万の人間が殺された。その人たちの父母、兄弟、友人、恋人、妻、子たちの胸の内には、今もそのだれにもつたえられぬ思いが生きている。・・・実はぼくもあの戦争に駆りだされて死にかけた一人だ。運よく死ぬ前に戦争が終わったけれども、ほくの兄はかわいそうに戦争の中で殺された。それも遠いビルマの山の中で、飢え、病んで死んだ。・・・戦争とはただひたすら悲惨、残酷、非人間的なものだ。英雄的な面などそこにはまるでない。おろかな殺し合いがあるだけだ。そのことをきみたちによく知ってもらいたい」。

徴兵令とは、どういうものなのでしょうか。「そのころは国民皆兵、つまり男子は全部兵隊にされると憲法で定められていた。きみだってそのころ生まれていたら兵隊にならなければならなかったんだよ」。

「召集令状というのが来るんだ。これは赤い紙に印刷されていたから赤紙と呼ばれていたが、あんなイヤなもの、怖ろしいものはなかった。赤紙には、『何月何日何時にどこそこの聯隊に出頭せよ』と記されていて、この命令はどんなことがあっても絶対に守らねばならなかった。つまり、赤紙を受け取ったらもう市民としての自由を奪われ、いやでも何でも兵隊になって、軍隊での命令にしたがうしかなかった」。

軍隊とは、どういうところなのでしょうか。「(軍隊では)どんなバカげた、おろかな、悪い命令でも、上官がこうしろと命じたらそれは天皇の命令にほかならぬ、絶対服従してそれを果たせというわけだ。このために、戦場ではとくにひどいことが起こった。・・・裁判もなしに捕虜を殺すなんて国際法に反しているし、何よりも人道上できることではない。が、ひとたび上官に『突け』と命じられたら、それは天皇の命令だからしたがうしかなかったのだ。こうして戦場では多くの悲惨な殺人行為がおこなわれた」。

「そのころもしきみたちが『こんな戦争はバカげているから、さっさと中国から軍隊を引きあげればいいじゃありませんか。中国人にとっても日本人にとってもそれがいちばんいいことでしょう』なんて言ったら、たちまち血相を変えた軍人にひっぱたかれて、『非国民! きさまそれでも日本人か!』と、ひどい目にあわされたことだろう。当時の日本はそんな国だったのだ。言論の自由なんてものはぜんぜんなかった。日本は神国だというような軍人どもの、狂信的な主張だけがおし通っている国だった」。

「こうして兄は兵隊にとられたのだ。そしてそれきり二度と帰ってこなかった」。

「きみが生まれたとき、日本にもう軍隊はなく、むろん徴兵令なんてものもなくなっていて、兵隊にとられずにすみほんとうによかった。実際、兵隊にとられるくらいいやなことはない。だから、兵隊になるとどういうことになるかを、軍隊生活を知らぬきみにここで伝えておこうと思う。映画だのマンガ本などでは兵士はときにかっこよく描かれたりしているが、あれはとんでもないまちがいだ。兵隊とはただみじめなものだ」。

「ぼくらは兵隊にとられて古参兵や下士官によく言われたものだ。『きさまらの命なんぞ一銭五厘でいくらでも補充できるが、天皇陛下から賜った銃はそうはいかねえんだぞ』。当時のハガキ代は一銭五厘で、それで赤紙を送りつければ兵隊にとれる。しかし銃は天皇から賜ったものでお前らの命より尊い、というのだ」。

「(軍隊の)小隊の中が新兵にとっては地獄だったのだ。なぜかというと、日本の軍隊では兵隊に絶対服従を教えこむことを一番の大事としていて、そのためにはたえず兵隊をしごき、なにかといえばなぐり、奴隷のようにただ『ハイッ』と答えるように教育したからだ。そのイジメをやるのが古参兵だった」。「たえず兵隊をイビリ、なぐり、おどおどさせ、いじめ、軍隊ではどんなことでも上官にいわれたらそれに服従しなければならぬことを教えこまれるのだ。自分の考えで判断したり、勝手な行動をしたりすることは絶対にしてはならぬのであった」。「こうして兵はやがて上官の命令には絶対服従するように訓練され、いかなる抵抗もしなくなる」。「兵になるとはつまり自ら考え判断することをやめた、奴隷になることだった」。

軍隊の実態が鋭く剔出されています。

戦争とは、どういうものなのでしょうか。「戦争というものの恐ろしいところは、戦地にいる兵隊だけが殺されるわけではないことだ。戦闘のおこなわれていない日本国内でも住民が殺された。とくに昭和20年3月10日の東京大空襲をはじめとするアメリカ空軍の日本攻撃によって、日本中の都会が焼かれ、大勢の人が死んだ」。

「ぼくが話したことだけでも戦争というものはどんなにむごく、残酷で、大きな不幸をもたらすかがわかってもらえただろうと思う。もしきみの中に戦争を格好いいものと考えるような気持ちが少しでもあったとしたら、それはとんでもない間違いだったわけだ」。

戦争の本質が暴かれています。

本書を通じて著者が若者たちに伝えたかったことは、この3つです。①兵士になるとは、奴隷になることだ、②徴兵令くらい恐ろしいものはないこと、③戦争というものは、どんなに立派な大義名分があっても、要するに殺し合いだということ。国家の命令で行う殺人行為にほかならないこと。