榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

カナダのボウ渓谷のシンリンオオカミ一家の興亡を見届けた写真集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(947)】

【amazon 『30年にわたる観察で明らかにされたオオカミたちの本堂の生活』 カスタマーレビュー 2017年11月21日】 情熱的読書人間のないしょ話(947)

アキアカネが日向ぼっこをしています。オトメツバキが薄桃色の花を咲かせています。青空にイチョウが映えています。あちこちでキクが香っています。因みに、本日の歩数は10,626でした。

閑話休題、私が心惹かれる哺乳類は、ヒトの雌とオオカミです。『30年にわたる観察で明らかにされたオオカミたちの本当の生活――パイプストーン一家の興亡』(ギュンター・ブロッホ著、ジョン・E・マリオット写真、今泉忠明監修、喜多直子訳、エクスナレッジ)は、こういう性癖の私を100%満足させてくれました。

2008年12月下旬、カナダのバンフ国立公園のボウ渓谷に、それまでパイプストーン渓谷を縄張りとしていたシンリンオオカミ一家が突如として現れました。このパイプストーン一家は1年のうちに他のオオカミを一掃し、その後6年に亘りボウ渓谷に君臨し続けました。

「古くはオオカミの序列を上からアルファ、ベータ、ガンマ、オメガと定義していた。しかし、私たちはその考え方を切り捨て、3タイプから成る上位(頑固なタイプ)、中立(社交的なタイプ)、下位(メンタルが弱いタイプ)の3ランクの社会としてとらえることにした。3つのタイプは、外交的タイプA・内向的タイプBの性格タイプとは違い、臆病な行動や大胆な行動の傾向によって分類されるものではない。観察を数年続けると、子オオカミたちにもきわめて早い段階で社会的な差があらわれることがわかった。その社会的序列は生後およそ11週までに出来上がる。子供社会では、行動パターンやさまざまなスキル、運動能力の発達の度合いにより、それぞれの地位が決まるようだ。また、それぞれの社会的地位は、慰安行動、遊戯行動、探索行動などから判断できた。生後3カ月にもなると、個体のタイプを識別し、『上位』『下位』『中立』の3ランクに分けることができた。中立の子オオカミは、ほかのきょうだいの地位に配慮しつつ、新たな社会的行動のあり方を絶えず模索しているようだった」。アルファ雄に支配されるオオカミの群れという私たちの思い込みは間違っていたのです。

「頑固なタイプ、社交的なタイプ、それにメンタルの弱いタイプは、性格タイプAとタイプB、雄と雌、年少と年長などのカテゴリーとは無関係に分類される」。

これは、違う一家の話です。「私たちは、オオカミ一家がけがを負った仲間にどのように接するかを間近で観察することができた。(トラックに撥ねられるという)事故の直後、ほとんど歩ける状態ではなかったユーコンのそばには、母親のアスターがついていた。いつも彼のかたわらにいて、社会的生活の手助けをしていたのだ。アスターは何週間も息子に付きっ切りだった。そして、父親のストームと娘のニーシャが、アスターとユーコンのためにせっせと食糧を運んでいた。彼らの行動は慈しみと思いやりに満ちていた。ストームやニーシャが、重傷を負ったユーコンを捨て置いたとしても不思議はない。しかし彼らはユーコンのために、肉の塊や有蹄動物の脚、ときにはカナダガンを丸ごと1羽運んでくる。献身的な介護と連携は、ユーコンが全快するまで続いた。『社会的競争心の強い大型肉食動物』という肩書きは、オオカミのほんの一面に過ぎないのだ」。胸が熱くなりました。

「オオカミたちが群れで生活するのは、集団で狩りを行うためではない。コミュニケーション能力に長けた社会性の高い動物だからこそ、群れで暮らしているのだ。彼らは、追いかけっこや取っ組み合いなど、社会的遊戯に没頭する中で、お互いの癖や意図、機嫌や『気持ち』を推し量ることを学ぶ。社会的ストレスや環境ストレスが少なければ少ないほど、オオカミの戯れの機会は多くなる」。この考察には、目から鱗が落ちました。

「パイプストーン一家消滅の背景にはさまざまな理由があった。高い順応力を誇ったオオカミ一家が『絶滅』した要因としては、繁殖ペアの老化と、渓谷の鉄道とハイウェイでの異常に高い死亡率、そして家族の社会的構造が人為的に破壊されたことなどが挙げられる。・・・ボウ渓谷で拡大していく観光業が、パイプストーン一家の寿命を縮めたことはまぎれもない事実だ。・・・パイプストーン一家が生き延びることができなかった生物学的な理由を挙げるなら、繁殖ペアが年老いたこと、獲物である有蹄動物が激減したこと、そして人間の活動から受けたストレスということになる」。

読み終わって、オオカミをますます好きになってしまいました。