榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

吉永小百合の内面に触れて、ますます好きになってしまいました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(954)】

【amazon 『昭和の女優』 カスタマーレビュー 2017年12月1日】 情熱的読書人間のないしょ話(954)

落ち葉に覆われた森は静まり返っています。因みに、本日の歩数は10,892でした。

閑話休題、『昭和の女優――今も愛され続ける美神たち』(伊良子序著、PHP研究所。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)では、原節子、田中絹代、京マチ子、淡島千景、岸恵子、吉永小百合、浅丘ルリ子、倍賞千恵子、岩下志麻の9人が取り上げられています。

いずれの女優論も興味深いのですが、かつて熱烈なサユリストであった私には、「吉永小百合――優等生への抵抗」の章がとりわけ心に響きました。

「吉永は自伝で、(『キューポラのある街』の)ジュンは自分が実人生で体験したのと同じ状況にあったから、自分の思いをそのままぶつければよかったと書いている。都立高校への進学を希望した吉永に、経済的に行き詰まっていた母は『学費は自分で稼いで』と言ったという」。

「『生意気言うな!』と怒鳴る父親に、ジュンは『親でも、いけないことはいけないのよ!』と言い返す。そんなシーンの吉永には素顔が見え隠れしている。両親と感情のすれ違いがあった吉永の本心がそのままぶつけられているような迫力がある」。

「クライマックスは、親友とのつらい別れである。当時は在日の人たちの帰国運動がさかんだった。母国には日本にない『幸福』がある。そう信じた人々が大挙して帰還船に乗った。北朝鮮に帰ることになった親友ヨシエとの駅頭の別れ。(弟)タカユキの親友サンキチは、日本人の母と別れるのがつらくなり大宮駅で列車を降りてしまう。しかし、母の再婚の決意を知って、さびしく新潟港から北朝鮮に向かう」。『キューポラのある街』をまた見たくなってしまいました。

「『キューポラのある街』で吉永小百合は演技派スターのスタートラインについたはずである。だが、その後の道程は、演技派への本人の願いとは乖離して、どこまでもスターとしての看板が優先されたものだった」。

「こんな役をしてみたいと望んだ企画も叶わなかった。たとえば、彼女の希望で脚本まで完成しながら映画化が見送られた作品に、三浦哲郎の芥川賞受賞小説『忍ぶ川』がある。薄幸な娘が大学生と結ばれ、幻想的な雪国の風景の中で美しい初夜を迎える『忍ぶ川』。ヒロイン志乃は、清純な吉永のイメージにはぴったりだ。しかし、明るい青春路線とは違う暗さが底に流れる物語である。結局、企画は実現しなかった」。「会社(日活)もそんな(ひたすら『聖女』のような小百合を求める)タイプのファンの希望に応えることを優先させた。吉永小百合の長い、長い葛藤の根源は、そこから発しているように思える」。

「彼女の前に立ちはだかったのは会社だけではない。吉永事務所を作ってマネージメントを取り仕切った父が社会派嫌いだった。『あゝ野麦峠』というかつての女工哀史を描いた本を映画化しようとした際、ストライキの場面が多く描かれた脚本に、プロデューサー役の父が同意しなかった。巨匠を監督に据えるところまで話が進んでいたのに、ついに映画化は実現しなかった」。

「焦燥感に苛まれる中、ストレスが原因で声が出なくなったこともある。そのとき懸命に励ましてくれた15歳も年上のテレビディレクターと結婚した。無論、両親は反対したが、彼女は譲らなかった。昭和48年、28歳での大きな決断だった」。

「ひたむきで真面目なタイプの吉永は、長い女優人生で多くの壁にぶつかり、苦悩してきた」。

近年、政治的に微妙な問題でも己が正しいと思うことは臆することなく発言する姿勢に敬意を抱いてきましたが、本書で吉永の内面に触れ、ますます好きになってしまいました。