榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

吉村昭が少年少女のために現代語訳した『平家物語』・・・【情熱的読書人間のないしょ話(969)】

【amazon 『平家物語(下)』 カスタマーレビュー 2017年12月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(969)

野鳥観察会に参加し、39種の野鳥を観察することができました。遂に、今日、キセキレイの写真を撮りたいという年来の宿願を遂げることができました。この個体は喉が白いので雌です。女房も、キセキレイが撮れたのはキセキ(奇蹟)的なことね、と喜んでくれました。モズ、ヒドリガモ、マガモ、カルガモ、カワウ、チュウダイサギ、水辺と樹上のアオサギをカメラに収めました。25mほど先のタヌキを見つけましたが、残念ながら鮮明な写真は撮れませんでした。代わりに、同行の西池光氏撮影の写真を掲載します。因みに、本日の歩数は16,759でした。

閑話休題、あの吉村昭が少年少女のために『平家物語』を現代語訳していると知り、どういう作品に仕上がっているのか気になって、『平家物語(下)』(吉村昭著、講談社・21世紀版 少年少女古典文学館)を手にしました。

源頼朝の容姿は、このように説明されています。「頼朝は、顔が大きいのに背たけは低い。容貌は優美」。

宇治、勢田の戦いで源義経・源範頼軍に敗北した木曽義仲の行動が、このように描かれています。「六条高倉というところに、近ごろ見初めて通っている女房がいた。義仲は、その女房と最後の名残をおしみたいと考え、馬をとめてその家のなかにはいっていった。家来の越後の中太家光は、いつまでたっても義仲がでてこないので、いらいらした。『なぜ、そんなにのんびりしておられるのです。敵は、すでに賀茂の河原まで押しよせてきております。このままでは犬死にになります』。家光は、家のなかにむかってさけんだ。しかし、義仲はでてくる気配がない。『やむをえませぬ。わたしのほうが先にあの世にいってお待ちします』。家光は声をかけ、腹に刀を突き立てて自害した。義仲は、家からでてくると、『わたしをはげますための自害だ』とおおいに恥じ、すぐに出発した」。この義仲が未練を示した女性は藤原基房の娘・伊子で、その後、彼女は再婚して道元を生んでいます。

『平家物語』の名場面の一つとされる「木曽義仲の最期」には、こういう一節があります。「賀茂川をいそいでわたり、粟田口、松坂にさしかかった。去年、信濃を出発したときは五万余騎といわれていたのに、いまはわずかに主従七騎になっていた。義仲は、巴と山吹というふたりの小間使いの女を信濃からつれてきていた。山吹は、病気がちで都にとどまっていた。巴は色白で髪が長く、容貌がまことに美しい。女であるのに、まれなほど強い弓をひき、馬に乗っても徒歩でも、刀を持てば鬼でも神でも相手にしようという一騎当千の者であった。・・・巴は、たびたびの合戦で手柄を立て、その評判は高かった。こんども合戦でも多くの者が逃げてしまったり討ち死にしたなかで、巴は義仲につきしたがう七騎のなかにまじっていた。・・・『おまえは女なのだから、すぐにどこへでも逃れていけ。わたしは、討ち死にを覚悟している。わたしは、討たれそうになったら自害をする。わたしの最後の戦に女をつれていたなどといわれるのは好ましくない』。義仲はさとしたが、巴は去ろうとはしない。なおも義仲に強くいわれたので、『それならよい敵に会って、最後の戦をしてみせましょう』。・・・御田の八郎に馬をよせ、むずと組んで馬から引きおとし、首を斬りおとした。そして、馬の頭をめぐらせると、東国のほうへ逃げていった」。巴というのは、何と魅力的な女性なんでしょう。

義経が人々からどう思われていたかが分かる一節があります。「『きょうの源氏の大将はどなたか』。『いうまでもない。清和天皇十代のご子孫である源頼朝どのの弟、九郎大夫判官義経どのだ』。伊勢の三郎義盛が答えた。『そうであったか。平治の乱で父を討たれて鞍馬の寺で稚児になったあの小冠者か。その後は金商人の使用人になって、食物をせおい、奥州へさまよいながら落ちていったあわれなやつ』」。

義経の容姿は、このように表現されています。「義経は色白で背が低く、前歯がとくにつきでているそうだ」。

「義経は、白拍子の磯の禅師の娘静をたいそう愛し、静も常に義経のそばからはなれなかった」。義経と静は深く愛し合っていたのです。

「建礼門院は、その年、二十九歳で、桃、李、芙蓉のように美しい。髪に翡翠のかんざしをつければあでやかであるのだろうが、いまは、その甲斐もないと思われたので、髪を切って尼となってしまったのである。・・・このようなわびしい暮らしをしていたが、文治二年の夏、建礼門院が大原に住んでいるのをきいた後白河法皇が、夜が明けぬうちに御所をでて、大原の奥にむかった」。『平家物語』の最終章です。

『平家物語』の内容を知るのに、本書は最適な作品と言えるでしょう。添えられている岡田嘉夫の独特の挿し絵が、当時の雰囲気を醸し出しています。