榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

5000年前から今日までの世界の歴史を経済面から俯瞰的に読み解いた一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1223)】

【amazon 『逆転の世界史』 カスタマーレビュー 2018年8月29日】 情熱的読書人間のないしょ話(1223)

クロアゲハの雌がヒャクニチソウ(ジニア)の花蜜を吸っています。黄色い花が集まって毬のようなランタナに近づいた時、花蜜を吸っているイチモンジセセリに気づきました。叢では、たくさんのオンブバッタが飛び跳ねています。因みに、本日の歩数は13,055でした。

閑話休題、『逆転の世界史――覇権争奪の5000年』(玉木俊明著、日本経済新聞出版社)には、人類の誕生から今日までの700万年に及ぶ歴史がコンパクトに収められています。この意味で、世界史を学び直すのに恰好な一冊に仕上がっています。

これだけに止まらず、本書がユニークなのは、5000年前から今日までの世の界歴史を経済的なヘゲモニー、すなわち覇権、指導的な地位という観点から俯瞰的に読み解いている点です。

「六大文明のなかで、経済の成長に最初に成功したのは、おそらく黄河文明であった。それは、長江文明を包摂して中国文明へと変貌し、おそらく15世紀頃までは、世界でもっとも生活水準が高い地域であったと考えられる」。

「秦から漢(前漢)の武帝に至る80年間余りは、皇帝独裁=中央集権化政策の歴史であり、この政策を開始したのは始皇帝で、完成させたのが武帝だったのである。この政策は、経済的には、単一市場誕生を目指したものであった。始皇帝から武帝までの100年ほどをかけ、中国は経済成長に適した制度を整えていったといえる。EUができるはるか以前に、中国に単一市場が誕生していたのである」。

一方、「ヨーロッパの文明は、地中海に生まれた。・・・一体となった地中海世界に、7世紀にイスラームが侵入した。そのため地中海は、より大きなイスラーム世界の一部として機能した。中世のヨーロッパ世界は、イスラーム勢力に囲まれたちっぽけなものでしかなかった。・・・そこからの脱却は、ポルトガルが喜望峰まわりでアジアに向かうルートを開拓してからのことであった。・・・ポルトガル以降、ヨーロッパ人はヨーロッパの船でアジアから商品を運び、そしてアジアへと商品を輸送するようになった。ヨーロッパ人は、海上ルートの物流をおさえていったのである。しかも、ヨーロッパは大西洋経済の形成に成功していった。その特徴は、西アフリカから黒人奴隷を新世界に運び、彼らがプランテーションでサトウキビを栽培するというものであった。大西洋経済の開発により、ヨーロッパ世界に砂糖やコーヒーなどの消費財が輸入され、ヨーロッパ人は豊かになっていった。さらにヨーロッパは、ヨーロッパ内部で情報の非対称性が少ない社会を構築することに成功し、市場への参入が容易な社会が形成されていった。ヨーロッパは、対外進出にあたり、ヨーロッパの商業システムを輸出していった。すなわち、ヨーロッパは、世界の枠組みをヨーロッパに有利なように変えていったのである」。

これとは対照的に、アジアの商人は、喜望峰を越えてヨーロッパや大西洋に進出することはありませんでした。このことが、やがて、ヨーロッパとアジアに決定的な差をもたらすことになったというのです。

世界は、ヨーロッパの手を通して、同質的な商業空間を持つようになっていきました。ヨーロッパは単に軍事力というハード・パワーだけではなく、活版印刷術というソフト・パワーによっても世界を支配していったのです。その後、さらに、「電信によって初めて、われわれは、人間が動くよりも速く情報が移動する時代」に移行していきます。

ヨーロッパによるヘゲモニーの主役は、ポルトガルからオランダへ、オランダからイギリスへ、イギリスからアメリカへと移っていきます。

「第一次世界大戦で経済的利益を獲得したアメリカの地位は大きく上昇し、第二次世界大戦が終わると、アメリカはヘゲモニー国家になった。アメリカは国際機関と多国籍企業を利用して、ヘゲモニーを握った」。

アメリカのヘゲモニーに翳りが見える昨今、「一帯一路により、中国はヘゲモニー国家になろうとしているようである。しかし、それは成功しないだろう。なぜなら、世界経済の活動が活発になることで中国に自動的に金が入ってくるシステムを開発しようとはしていないからである」。「中国経済が現在直面している問題としては、内陸部と沿海部の賃金のギャップと公害問題があげられよう。本来、『一帯一路』によってこの2つの問題の解決を目指さなければならないはずだが、それを目指しているようには思われない。これこそ、『一帯一路』の重要な欠落点であろう」。著者のこの指摘には目から鱗が落ちました。なお、一帯一路構想とは、中国西部~中央アジア~欧州を結ぶ「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、中国沿岸部~東南アジア~インド~アフリカ~中東~欧州と連なる「21世紀海上シルクロード」(一路)からなっています。本書によって、中国が一帯一路の欠落点に気づくことがないよう祈るばかりです。