榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

大谷翔平は哲学者か。大谷をますます好きになってしまう一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1256)】

【amazon 『大谷翔平 野球翔年(Ⅰ 日本編 2013~2018)』 カスタマーレビュー 2018年9月30日】 情熱的読書人間のないしょ話(1256)

雨粒がオクラの花、トウガラシの変種、ヤツブサの実の美しさを引き立てています。

閑話休題、私にとっての最も好ましい青年像は大谷翔平です。投手と打者の二刀流という未踏の領域で目を瞠るような実績を上げながら、常に謙虚で、冷静に自分を見詰め、さらなる高みを目指す姿勢に痺れてしまいます。

大谷翔平 野球翔年(Ⅰ 日本編 2013~2018』(石田雄太著、文藝春秋)は、日本における大谷の軌跡を知るのに恰好の一冊です。アメリカでの活躍ぶりは、いずれ出版されるであろう「Ⅱ 米国編」に期待することにしましょう。

前例なき挑戦は、高校時代から始まっていたのです。「花巻東高校の佐々木洋監督から教えてもらった『先入観は可能を不可能にする』という言葉を胸に刻んで、高校生の時点で、163kmという目標を設定していた大谷である」。そして、二刀流についても、母の加代子の「ピッチャーもバッターも両方やればいいのに」という言葉がいい方向に影響したようです。

入団交渉中の栗山英樹監督は、大谷からの「アメリカではどうやって失敗するんですか」という質問に驚いたそうです。大谷の真意は、「成功した人には特別なものがあると思いますけど、失敗する人には何か共通したものがあるのかなと思って、訊いてみました」ということだったのです。

「(プロ1年目の)数字については、原因があって結果があるわけですから、満足はしていませんけど、納得はしています」。「相手のことよりも、しっかりと自分の持ってるものを出そうということです」。「ハードルが高すぎると目標が見えなくなっちゃうし、自分に届きそうで届いていない数字を目標にするのがベストなので・・・」。「勝てる勝負に勝っても嬉しくないですし、どっちが勝つかわからない、むしろ負けるかもしれないくらいの勝負のほうが、勝ったときの嬉しさは大きいのかなと思うんです。だから、緊張しないとおもしろくないかなって思います」。「誰を、ということじゃなく、自分の中で課題を消化するのが野球のおもしろさなのかなと思います」。「プロ1年目より2年目、2年目よりも3年目、今が一番、僕の中では自信がありますね。僕は今まで、結果を出すためにやり尽くしたと言える一日一日を、誰よりも大事に過ごしてきた自信を持ってますから・・・」。「高校の頃から言われてきたのは、期待は応えるものじゃなくて、『超えるものだ』ということ」。「最後、僕が野球を辞めるとき、自身がどういうものを発見できたのかなというところが一番、大事だと思うんです」。「練習って、それがよくない練習法だったとしても、のちの自分にすごく生きてくるということがあるんです。だとしたら結果的にその練習は失敗じゃないし、ムダなことではなかったという捉え方がある。ケガをするのは決していいことではありませんけど、プレーに対してより考えるようになったり、プレーに深みが出てくるということもあるかもしれません。ですから、もしかしたらいいほうに転んでくれる要素がそこにあるかもしれない」。これらが、未だ人生経験の浅い青年の言葉だというのだから、心底、驚かされます。いずれの言葉も裏付けとなっている思考に深みがあり、哲学者の趣さえ漂わせているではありませんか。

「高校1年の冬、大谷翔平が書いた一枚の紙がある。最終目標を真ん中に書き、その周りに、目標を達成するために必要なものを8つ、必要だと思う順番に書き込む。さらに、その8つのそれぞれに必要だと思うものをもう8つ、必要な順に書き込んだ。花巻東高校の佐々木洋監督が選手たちに書かせている『目標達成シート』だ」。このシートに忠実に、営々と努力を重ねてきたところに、大谷の凄さ魅と魅力があります。私も高校時代に「目標達成シート」に出会っていたら、もっと違う人生を歩んでいただろうにと、悔しい思いをしています。

本書で大谷の内面に触れることができ、ますます大谷が好きになってしまいました。