榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

22歳年下の課長から、毎日、使い走りを命じられた58歳のリストラ候補者・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1311)】

【amazon 『恐怖の報酬』 カスタマーレビュー 2018年11月22日】 情熱的読書人間のないしょ話(1311)

今晩(11/22)放送されたテレビ東京の「カンブリア宮殿」に、我が一族がちょっぴり登場しました。東京・新宿の「がんこ・新宿・山野愛子邸」で、母の92回目の誕生日を祝う会を開いていた最中に、突然、インタヴューされたのです。

閑話休題、久しぶりに赤川次郎作品を手にしたが、『恐怖の報酬』(赤川次郎著、角川文庫)は、期待を裏切らない短篇集でした。

とりわけ印象深いのは、「使い走り」です。

「午前十時だというのに、今日も『炎暑の一日』がすでに始まっていた。『まだ出かけないのか』。朝一番の会議を終えて、席に戻って来た課長の寺岡は、机の上の書類を見るより早く、そう言った。課の中が静かになる。――みんな、何も聞こえていないふりをするのだ。『柳井』と、寺岡は言った。『まだ出かけないのかと訊いてるんだ』」。

「寺岡と柳井。――知らずに見れば妙な取り合せだ。課長の寺岡悟は三十六歳という若さ。そしてその寺岡から呼び捨てにされている柳井八郎は、二十以上年上の五十八歳なのである」。

「『冷たいお茶、飲んでく?』。星野貞代は、二十四歳。高卒で、事務をしている。――柳井から見れば、娘の年齢だ。『ありがとう。しかし、外へ出りゃ汗になる。やめとくよ』」。

「できるだけ汗をかくまいと、外では上着を脱ぐが、少し行くとたちまち汗がふき出して来た。――今日も、片道三時間の『お使い』が始まったのである」。

「結局、工場へ着き、先方の庶務の女性に書類を渡したのは、会社を出て三時間後のことだった。向うも、わざわざ遠くまで柳井がやって来たことに、面食らっていた・・・。その日、社へ戻ったのは午後七時近くで、もう寺岡も帰宅してしまっていた。『大変でしたね』。星野貞代が待っていてくれて、『いやがらせするにしたって、ひど過ぎるわ!』と怒っていた」。

会社の景気が悪くなり、リストラ要員となった柳井が辞めないため、面目を潰された上司の寺岡が柳井に毎日、片道3時間かかる工場への書類運びをやらせているのです。ファックスすればすむというのに。

酷暑のある日、工場へ行く途中の乗り換え駅のベンチで、柳井は心臓発作で死んでしまいます。「――柳井が見付かったのは、もう夜になってからだった」。

その後、寺岡と、その妻と、一人息子に、次々と不思議なことが起こります。

何とも、身につまされる怖い話です。