榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

71歳の生物学者の自由気儘、言いたい放題のエッセイ集は一読の価値がある・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1316)】

【amazon 『いい加減くらいが丁度いい』 カスタマーレビュー 2018年11月30日】 情熱的読書人間のないしょ話(1316)

都内の黄葉、紅葉とイルミネーションを楽しみました。明治神宮外苑、日比谷公園、小石川後楽園、六義園、六本木けやき通り、毛利庭園、東京ミッドタウン、カレッタ汐留、KITTE、東京駅・丸の内と盛りだくさんでした。因みに、本日の歩数は22,824でした。

閑話休題、『いい加減くらいが丁度いい』(池田清彦著、角川新書)は、ユニークなエッセイ集です。

71歳の著者は、こういう心境にあります。「(あちこちから講義の依頼があるが)やっと大学の講義をやめられたのに、何が悲しくて新しく講義を始めなくちゃいけないのか分からない。あとはメルマガを書いて、本でも書いて、余生を過ごせればいいと思っているが、余生があるのかどうかも定かではないよね。とりあえず、今日一日楽しければ文句はない。老人に未来はないのだから、先のことを考えても仕方がないのである」。

と口では言いながら、著者一流の方法で、「物事に気づく→判断する→形にする」という作業を続けています。著者の専門兼趣味であるカミキリムシ研究の方法論に通じているように見えます。

例えば、原発については、このような判断が示されています。「原発は可及的速やかに廃炉にするのが長い目で見れば、国民の安全のためばかりではなく、経済的にも得策だということは明らかだと思われる。地震国の日本では、原発のそばで大きな地震が起きれば、3・11のような原発事故が起こる可能性は高い。50年間というタイムスケールで考えれば、事故が起こる確率の方が高いだろう。ひとたび事故が起きれば、放射能で汚染された広大な土地は長い間使い物にならなくなり、原発の近くの農作物や海産物は汚染されて流通できなくなり、その経済的な損失は膨大になる。3・11の事故を目の当たりにすれば、まともな思考の持ち主ならば、そのように考えるだろう。実際、地震国のイタリアや台湾は原発の廃止に向けて舵を切り、地震があまり起きない韓国でも脱原発の動きが始まった。なぜ日本だけが再稼働に踏み切ろうとするのか」。

ものの見方に関し、ダンバー数が登場します。「イギリスの人類学者ロビン・ダンバーは、1992年に人間が円滑に安定的に維持できる関係は150人程度が上限だという説を発表した。この数はダンバー数と呼ばれ、これを超えて集団が大きくなると、ルールを策定しないと、集団の統制が取れなくなるようだ。逆に言えば、ダンバー数以内の集団であれば、細かい明示的なルールなどなくても、集団はうまく機能するということでもある。むしろ、ある目標実現のために動いている組織では、明示的なルールを決めないダンバー数以下の集団の方が効率よく仕事が進むようだ」。私が小さな組織で新規事業を立ち上げたときの経験からも、この考え方は妥当だと考えます。

線虫を用いたがん検査については、こう記されています。「一義的な刺激反応系は、結果が一意に決まるので、うまく応用すれば役に立つ。C・エレガンスという線虫はモデル生物(生物学の実験によく用いられる素性の分かった飼育しやすい生物)として有名だが、最近、安価ながんの検査に使えることが分かって注目されている。この動物は寒天培地の上で培養した大腸菌を餌にして飼育されるが、たくさんの線虫がいるところにがん患者の尿を垂らすと、線虫が集まってくる。反対に正常な人の尿を垂らすと逃げていくという。がんの種類まではわからないが、最初のスクリーニングとしては極めて有効で、95.8パーセントの精度で診断できるという。線虫はがんのにおいに対してみんな一義的な反応をするので、この検査が成立するわけだ。個性や多様性があってはだめなのである」。著者の専門領域なので、さすがに分かり易く説明されています。

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の交雑について、著者は、ホモ・サピエンスの女とネアンデルタール人の男が交配したと決めつけています。「約10万年前~6万年前にアフリカを出たホモ・サピエンスの集団が、先住民のネアンデルタール人と交雑したことは、アフリカを出立しなかったホモ・サピエンスを除く、60億人のすべての現代人のゲノムの数パーセントが、ネアンデルタール人由来のDNAで占められていることから明らかである。・・・サブサハラに先祖代々暮らすアフリカ人を除くすべての現代人は、ホモ・サピエンスの女とネアンデルタール人の男のハイブリッドの子孫なのである。逆に、ネアンデルタール人の女とホモ・サピエンスの男のハイブリッドの子孫は絶滅してしまったのだ。もちろん、ネアンデルタール人の女とホモ・サピエンスの男が交配しなかったという可能性も、全くないとは言えないだろうが、2つの人種間の交配において、男女の組み合わせが非対称的だということはまずあり得ないだろう。それとも、ホモ・サピエンスの女にとって、ネアンデルタール人の男は魅力的で、ネアンデルタール人の女にとってホモ・サピエンスの男はセックスする価値がないと思われたのだろうか。恐らく、ハイブリッドの赤子は女が属する集団で育てられ、ために、ネアンデルタール人の集団で暮らしていたハイブリッドの子孫は、ネアンデルタール人の滅亡と運命を共にしたのであろう。一方、ホモ・サピエンスの集団で暮らしていたハイブリッドの子孫は、ネアンデルタール人から耐寒性に優れた遺伝子を受け継いで、氷河期を生き延びたのであろう。ホモ・サピエンスの中には、純血を守ったグループもいたのかもしれないが、氷河期を生き延びられずに絶滅したに違いない。我々が現在、万物の霊長のような顔をして跋扈しているのはひとえに、ネアンデルタール人の男とセックスした勇気あるホモ・サピエンスの女のおかげなのである」。全体像はこのとおりであったかもしれないが、ホモ・サピエンスの男のセックス・アピール不足説には、賛同しかねます。

71歳の生物学者の自由気儘、言いたい放題のエッセイ集は一読の価値があります。