榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

2025年の金融の世界は、このように様変わりしているだろう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1657)】

【amazon 『アマゾン銀行が誕生する日』 カスタマーレビュー 2019年10月30日】 情熱的読書人間のないしょ話(1657)

今朝は、濃霧の中を心ゆくまで彷徨いました。その森林篇です。

閑話休題、『アマゾン銀行が誕生する日――2025年の次世代金融シナリオ』(田中道昭著、日経BP社)では、金融の世界の大胆な近未来予測が展開されています。

バーゼル銀行監督委員会のレポートでは、5つの近未来シナリオが提示されています。
①デジタル化によって改善された銀行による支配
②新たな銀行による支配
③既存銀行とフィンテック企業との分業
④既存銀行の格下げシナリオ
⑤銀行が破壊されるシナリオ

著者自身が予測する2025年の日本における次世代金融シナリオは、顧客を法人と個人に分類し、さらに法人は大企業と中小企業に、個人は一般と富裕層に分けて考察しています。

「大企業取引においては、既存銀行が『デジタル化によって改善された銀行』に進化する可能性が最も高いと思います。・・・中小企業取引は、新たな銀行が誕生し、フィンテック企業も活躍し、既存銀行との間で相乗りする分野になるのではないかと予測しています。・・・一般個人向け取引は、既存銀行が最も大きな影響を受ける分野になるのは確実でしょう。テクノロジー企業は、すでにアリババが行っているように、決済業務から始まって様々なビジネスを展開しています。既存銀行はテクノロジー企業が構築したプラットフォームに銀行インフラや単発の金融サービスを提供するだけの存在になっている可能性も否定できない分野だと思います。個人の富裕層向け取引は、既存銀行、特にメガバンクが最も死守したい分野であると考えられます。最近増えてきたメガバンクの近未来型店舗のレイアウトを見ると、一般個人向け取引はデジタル化で省力化する一方、富裕層取引に注力しようとする明確な意思が感じられます」。

日本の金融機関に対して、著者は3つのことを提言しています。
①デジタル化がさらに進捗していくことが確実であるためデジタル化への対応を早期に実現すべき分野と、レガシーとして残ると判断される分野とを明確に峻別すること。
②デジタル化への対応を早期に実現すると意思決定した分野については、重要な経営戦略として取り組むこと。
③レガシーとして残ると判断した分野については、人間がやるべきことをさらに先鋭化させ、専門性や信頼性をさらに高める努力が必要。

上記②のデジタル化に当たっては、米国のGAFA(アマゾン、グーグル、アップル、フェイスブック)と中国のBATH(アリババ、テンセント、バイドゥ、ファーウェイ)の8社をベンチマークとするよう強く勧めています。また、日本の金融機関が見習うべき銀行として、「世界一のデジタルバンク」と注目を浴びている、シンガポールのDBS銀行を挙げています。

著者は、次世代金融シナリオを考える際のポイントとして、「ブロックチェーン(仮想通貨→暗号資産)」と「価値観の変化」の重要瀬を指摘しています。

「仮想通貨が『暗号資産』と呼ばれるようになり、ほとんどのICO(=イニシャル・コイン・オファリング。独自の仮想通貨の発行・販売による資金調達)がセキュリティートークン(=証券のような価値を持つもの)として『証券』と見なされるようになる。これだけを見ると、『仮想通貨は死んだ』ように見えてくるのではないかと思います。しかし私は、それでも『仮想通貨は死んでいない』、むしろ混乱を極めていた状況から一歩抜け出し、『死んでいくもの』と『生き残っていくもの』が明快に定義されつつあると捉えるべきだと考えています」。

「テクノロジーの進化は、私たちの価値観にも大きな変化を与えるようになってきました。現実として、一人ひとりが自分の個性や自分らしさを活かして何かを生みだし、それを発信していくという形態で『働く』ことが可能な時代が到来しています」。

金融ビジネスに止まらず、近未来の全体像を考える上で、重要なヒントを与えてくれる一冊です。