榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

小学5年生の『桃太郎は盗人なのか?』という調べ学習に脱帽・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1713)】

【amazon 『桃太郎は盗人なのか?』 カスタマーレビュー 2019年12月24日】 情熱的読書人間のないしょ話(1713)

東京・新宿の新宿御苑で、オシドリの雄、雌をカメラに収めることができました。都立富士高同期の有志による、仲間の病気克服祝い&忘年会に参加しました。年齢を重ねれば重ねるほど、金や名誉でなく、・健康であること、・夫婦仲がよいこと、・やりがいのある毎日であること――が大切だと再認識しました。因みに、本日の歩数は12,001でした。

閑話休題、『桃太郎は盗人(ぬすっと)なのか?――「桃太郎」から考える鬼の正体』(倉持よつば著、新日本出版社)を読んで、頭をガーンと殴られたような衝撃を受けました。著者が小学5年生ということにも驚きましたが、彼女が有している3つの力に圧倒されたのです。

第1は、問題・課題を見つける高感度の観察力です。

「『桃太郎は盗人である』と書かれた1冊の本に出会い、本当にそうなのかを調べてみたいと思ったからです。私は、桃太郎は正義のヒーローだと思っていたので、その本はまちがっているか、ウソをついていると思っていました。はじめは信じられないまま、『桃太郎』の読み比べをしました」。

『空からのぞいた桃太郎』(影山徹著、岩崎書店)を「手に取ると黄色い帯には、衝撃的なことが書いてあったのです。『鬼だから殺してもいい?』『あなたはどう思いますか?』。そしてカードサイズの解説が入っていました。絵本に解説が入っているなんてびっくり!! この絵本の桃太郎は、鬼は何も悪さをしていないのに、鬼退治に行くと言って鬼をたおし、鬼の宝ものを取りあげて、おじいさん、おばあさんのもとへ帰っていった・・・というお話で、私の知っている『桃太郎』の話とはちがっていました。『鬼がかわいそう・・・。桃太郎はひどい!! 桃太郎こそ、悪者だ!!」と思いました。その後、解説を読むと、福沢諭吉が『桃太郎は盗人だ』と非難したと書かれていました。・・・そんなえらい人が桃太郎を盗人だと言っているのです。盗人ってどろぼうのことだよね?? 村の人々を守る正義の味方だと思っていた桃太郎が盗人!? どろぼうだって!? どういうこと?? それと同時に、『鬼は、みんな悪者だと思っていたけれど、鬼ってみんな悪いのかな?』『悪くない鬼もいるんじゃないのかな?』という疑問が出てきました。・・・なかでも『泣いた赤鬼』に出てくる心やさしい鬼は、とても有名です。もしかしたら、桃太郎に出てくる鬼も、本当は、人間に悪さなんてしてなかったんじゃないかと思う気持ちも出てきました。そこで私は、桃太郎がどうして盗人だと言われているのか、そして、どうして鬼はいつも悪いと一方的に決めつけられているのかを調べてみたくなりました』。

第2は、問題を解決するのに必要な作業を手順よく、かつ粘り強く進めていく実行力です。

「たくさんの『桃太郎』のお話を読むために、たくさんの人に協力してもらいました。自分一人では、本にすらたどり着くことができなかったと思います。袖ヶ浦市立蔵波小学校の学校司書である佐々木悦子先生には岐阜県図書館に桃太郎の『絵本読み比べリスト』があることを教えてもらいました。袖ヶ浦市立中央図書館司書のみなさん、なかでも矢倉朋子さんと田坂裕美さんには、千葉県内の図書館だけでなく、国立国会図書館から桃太郎関連の本を探してもらいました。そこでいちばん心に残ったのは、江戸時代に日本ではじめて書かれた赤本『むかしむかしの桃太郎』を探してくれたことです(赤本とは、江戸時代に刊行された子ども向けの本のことです)。東京都の多摩図書館にあるということをつきとめてくれ、司書さんは本当にすごいなぁと思いました。だから、困ったことがあると、何でも司書さんに相談するために、夏休みは何度も図書館に通いました。学校の司書さんも公共図書館の司書さんも、本のことなら何でも知っていて、とてもたよることができました」。

第3は、問題解決への過程で理解を深めつつ、遂に独自な結論に辿り着いた、物事を論理的に考えることのできる力です。

著者が実際に辿った道筋は、「第一鬼 桃太郎は盗人なのか」、「第二鬼 鬼退治に行った理由とは?――「桃太郎」読み比べ」、「第三鬼 かわっていく桃太郎」、「第四鬼 鬼はどうして悪者だと思われているのか?――鬼は何者?」、「第五鬼 現在の鬼像――『泣いた赤鬼』から」に詳細に記録されています。そして、「第六鬼 まとめと感想」は、とても小学生とは思えない、大人でもなかなか行き着けないレヴェルに達しています。それは、桃太郎や鬼の時代的変遷の考察に止まらず、自分の心の中の鬼の存在にまで及んでいるのです。「自分なりの『鬼は何者なのか?』の答えを出そうと思います。・・・鬼が自分の心に出てくることは悪いことではなく、自分を成長させてくれるあかしなんだと思うようになりました。自分の心の中に鬼が出ることで、やる気を出したり、がんばろうとしたりする感情がたくさんあふれてくるんじゃないかなぁと思うのです」。私も疑問にぶつかると、とことん調べないと気が済まないタイプの人間だが、倉持よつばという何十歳も年下の後輩には脱帽です。

さらに驚くことに、巻末の資料編が学術書に負けないぐらい充実しているのです。「『桃太郎』の読み比べ」、「江戸時代~明治・大正・昭和初期の『桃太郎』読み比べ」、「鬼が出てくる絵本・物語と調べ学習で参考にした本」――という3部構成になっています。

個人的に嬉しいことは、私も読み聞かせで取り上げたことのある『ないた あかおに』(浜田廣介文、池田龍雄絵、偕成社)が重要な参考文献として登場していることです。

嬉しいことのもう一つは、著者が私と同類の図書館大好き人間であることです。「私は図書館が大好きです。本の中には、私の知らない世界がいっぱいあるからです。調べるたびに新しい疑問や問題が出てきて、どうすればよいか迷った時、いつも助けてくれたのは、司書さんと図書館にある本たちでした。これからも図書館に通います!!」。