榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

練達の医療ジャーナリストが解説する、がんの最新治療と、患者が注意すべきこと・・・【薬剤師のための読書論(36)】

【amazon 『二人に一人がガンになる』 カスタマーレビュー 2019年11月20日】 薬剤師のための読書論(36)

医療ジャーナリストの願い

巷には、がんに関する書籍が氾濫しているが、『二人に一人がガンになる――知っておきたい正しい知識と最新治療』(村上和巳著、中山祐次郎・発信する医師団監修、マイナビ新書)は、類書とは異なる特徴を備えている。

その特徴は、3つにまとめることができる。
①がんに関する最新知識と、最新治療が分かり易く説明されている。これには、長年、医療ジャーナリストとして第一線で活動してきた著者の体験が存分に生かされている。
②読者、あるいは読者にとって大切な人ががんと診断されたとき、どうすればよいかが具体的に示されている。ここでは、著者が参加している勉強会が役に立っている。
③がん専門医が行う「標準治療」が、現在考え得る最高・最良の治療法であることが強調されている。「標準治療」から逸脱した、不確かな情報に右往左往して、金や時間を無駄にする人を少しでも減らしたいというのが、著者の本書執筆の動機となっているからだ。「診療ガイドラインに規定されている治療は一般的に『標準治療』と呼ばれます。科学的に見ると、現時点で最も正当な治療です。ただ、この『標準』という言葉が一部で、『<標準>があるなら、それより上の治療があるのだろう』という誤解を招いているようです」。

がん検診は無駄なのか

「がんの診断にかかわる検査を大学の授業に例えるならば、(市区町村が行う)対策型検診はいわば必要最低限の『必修科目』に過ぎません。逆に言えばより厳密に自分にがんがあるかどうかを検査するならば、より検査手法が多い人間ドックなどの任意型検診を受けることを選択する必要があります。これらはいわば大学の科目でいう『選択科目』に当たるものです」。

「一部には、こうした(かなり進行の速い質の悪いがんを見つけられなかったり、画像診断を行う医師の)見逃しがあることや、対策型検診の受診者でがんが実際に見つかるのが300~500人に1人と言われていることなどを理由に『がん検死など受ける意味はない』と言い放つ人もいますが、これはあまりに極論です。・・・そもそも宝くじを買わない人は当たる可能性が皆無です。がん検診もこれと同じで、たとえごくわずかな見逃しがあったとしても受けない人は早期に見つかることすらありません。自覚症状が出てからでは手遅れになる場合が少なくないのです」。

がんの病期分類とは

「一般に、臓器にできる固形がんの病期分類で多く用いられるのがTNM分類というものです。これはT=腫瘍、N=所属リンパ節転移、M=遠隔転移という3要素を総合して考えるというものです。・・・これらを組み合わせた結果として進行度分類があり、多くの場合、ステージ1~4の4段階に分けられます」。数字が大きくなるほど、がんが進行していることを意味している。

最新の抗がん剤治療

最新治療として、分子標的治療薬(現在では30種類超が使用可)、免疫チェックポイント阻害薬(現在では6種類が使用可)が分かり易く解説されている。個々の患者に応じて、抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬を使い分ける治療法は、近年、「プレシジョン・メディスン(個別化医療)」と呼ばれ、急速に注目を浴びている。

第4の治療法、免疫療法

「手術」、「放射線」、「抗がん剤(化学療法)」が、がんの3大療法と呼ばれてきたが、第4の治療法として登場してきた「免疫療法」について、その代表的薬剤であるオプジーボ(一般名:ニボルマブ)の詳しい説明にかなりのページが割かれている。「現状でのオプジーボを始めとする免疫チェックポイント阻害薬の評価は概して言えば、『保険適応となっているがんの種類は限定的で、効果のある患者も一部だが、効果のあった患者の一部では、これまでの薬では考えられないほど効果が持続することがある』というものです」。

「オプジーボのような免疫チェックポント阻害薬は、点滴で静脈から注射する注射薬で、血流を通じて全身にいきわたらせるという意味では全身療法の抗がん剤の一種と言えるかもしれません。しかし、これまで抗がん剤に分類されている細胞障害性抗がん剤、分子標的治療薬はともにがんそのものを攻撃します。これに対し、免疫チェックポイント阻害薬はあくまで免疫細胞の働きを助けるだけでがんそのものを攻撃はしません。その意味では抗がん剤とは別に分類されます。また、手術、放射線治療もがんに対する直接的な治療です。免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法が第4の治療と呼ばれるようになっている背景には、こうした特徴の違いがあります」。

あなたが、がんと診断されたら

●先ず、国立がん研究センターが開設している「がん情報サービス」(https://ganjoho.jp/public/index.html)のページを開き、自分の知りたい基礎知識を身に付ける。
●さらに詳しい情報を手に入れたいときは、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する「Mindsガイドラインライブラリ」(https://minds.jcqhc.or.jp/)で知識を深める。
●「Mindsガイドラインライブラリ」で見つからない情報は、インターネットの検査エンジンで、「(自分が罹っているがんの名前)」スペース「ガイドライン」のAND検索を行う。