榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

スマホ依存症・ゲーム依存症は「猛獣に食われる猛獣使い」、「自己の脳内借金」だ・・・【薬剤師のための読書論(37)】

【amazon 『スマホ依存から脳を守る』 カスタマーレビュー 2020年2月24日】 薬剤師のための読書論(37)

スマホ依存から脳を守る』(中山秀紀著、朝日新書)は、大人であれ子供であれ、スマホ依存症・ゲーム依存症を治したいと思っている人にとって最適なガイドブックである。

依存症の正体とは――。「依存症の根幹となる症状は、『精神依存』と呼ばれるものです。『精神依存』とはその名の通り、『精神的に依存する』ことですが、これには『正の強化』『負の強化』という2つの側面があります。・・・快楽を得たい。気持ちよくなりたい。そのために依存物を使用することを、『正の強化』といいます。・・・『負の強化』とは、『不快を解消するために依存物を使用する』側面です。依存症になると、依存物を止めると『不快』になります。この『不快』は『イライラする』、『ムシャクシャする』、『物足りない感じがする』、『空虚な感じがする』、『うつ』、『不安』など様々な形で現れます。・・・人は『不快』になると何とか早くそれを解消しようとして、思考・視野が狭くなることがよくあります。他の『不快』の解消手段もあるのに、慣れ親しんだ依存物を使って、『手軽』に『不快』を解消したくなります。・・・私たちの脳は、快楽の消失は諦められても、不快を我慢し続けることは困難なのです」。

「依存症になってしまうと、快楽をもたらすはずの依存物を使えば使うほど、依存物を使っていないときの不快度は増してゆくのです。・・・こうした関係は、猛獣使いと猛獣に喩えるとよりわかりやすいかもしれません。人々にとって、依存物という猛獣を飼いならすのは憧れであり、かっこいいかもしれません。しかし依存物は猛獣よりもしたたかです。猛獣に食べられれば痛いのですぐ気づきますが、依存物は『快楽』をもたらすので食べられてもすぐには気づきません。つまり、飼いならせずに食われていることに気づくことができないのが、依存物なのです。依存物に食われてしまう人は後を絶ちません」。

「依存症は、借金に喩えることもできます。・・・スマホの場合には、一日のほとんどをオンラインゲームやSNS、インターネット動画などに費やしている状態に相当します。・・・一日のほとんどをスマホのSNSやオンラインゲームに費やしても、短期間で体を壊すようなことにはなりません。青少年の場合は、特に体がもちます。親がWi-Fiや電気、食事などを含めた最低限のライフラインを維持すれば、経済的にもそう簡単には破綻しません。親が最低限のライフラインを維持しない、もしくはできなくなると破綻に陥ることになりますが、一般的にかなりの長期間にわたって『自転車操業』の状態を続けられます。当然、『借金状態』や『自転車操業』状態が続くと、依存症は重症化していきます。・・・依存症とはいわば、『自己の脳内借金』なので、これを支払わずに逃れることはできません。夜逃げも海外逃亡も効かず、清算するしかない――。でも、安心してください。依存症の世界は現実の借金の場合と異なり、生きている限り返済不能に陥ることはなく、破産という事態はありえません。そしてこの『脳内借金』を返済して、必ず回復することは可能なのです」。

精神科医である著者は、スマホ依存症に有効なのは心理・精神療法だと言う。そして、薬物療法については、こう述べている。「スマホ依存症自体に有効な薬物療法は、今のところほとんどありません。一方で合併精神疾患に対しては有効であり、同時にインターネット依存症にも有効である薬物療法についていくつかの報告がされています。具体的には、『インターネット依存症にうつ病(うつ状態)や注意欠如多動性障害(およびその傾向)を合併している場合』で、それらの症状に対応する薬を服用することによって、ネット依存傾向も改善されたというものです。臨床的にこれらの合併症に対して薬物治療すると、それだけでもある程度インターネットやオンラインゲームの依存的使用が改善することもあります。加えて、心理療法(認知行動療法)も同時に行うとより効果的であったという報告があります。つまり、合併症に対する薬物療法と、ネットの依存的使用に関する心理・精神療法を同時に行うのが最も望ましいと考えられます。最近では、アルコールやニコチン(タバコ)依存症に有効な薬がいくつか開発されています。将来はネット・ゲーム依存症に有効な薬が出てくるかもしれません」。

著者が勤務する久里浜医療センターにおける依存症治療の取り組みの実際が詳細に説明されている。

「スマホ依存症から回復できるのか?」という質問に、著者が「回復できる」と答えていることに勇気づけられる人が多いことだろう。