『カンブリア宮殿』の「編集後記」は、私の文章の手本です・・・【MRのための読書論(155)】
文章の手本
私が文章の手本にしているテレビ番組がある。テレビ東京の『カンブリア宮殿』の最後に、「村上龍は、収録を終えて、こんなことを考えた」というナレーションで始まる「編集後記」がそれである。この表現はさすが村上龍だな、この文章は使えるなと思う箇所を抜き書き帳に書き移すようになって、もう何年になるだろうか。
『収録を終えて、こんなことを考えた――カンブリア宮殿 編集後記』(村上龍著、日本経済新聞出版社)には、この「編集後記」が158収録されている。どれにも、「想像力が権力を奪う」といったタイトルが添えられているが、その凝縮した表現力には脱帽する。
報告書、企画書、手紙、メール、SNSなどの文章の勉強になるだけでなく、人としての生き方やビジネスのエッセンスにも触れることができるので、お得な一冊である。文章術、人生論、ビジネス成功術と、まさに一石三鳥だ。
人生
/「人生設計」といわれるが、人生って、設計できるのだろうか。一人では生きていけないし、大きな組織に属していても安心できない。二人は、遠回りをしながら天職に気づき、「今すぐにできることは何か」を考え、実践した。
●非常にユニークな人物に見える。だが実は、「アンフェアに立ち向かう」という、オーソドックスな価値観に貫かれている。マザー・テレサやチェ・ゲバラと同じだ。
●髙島さんの経営哲学はまったくぶれていない。「最大のリスクは何も夢中になれるものがないまま人生を終える、と言う事だ」。これはアマゾンのジェフ・ベゾスの言葉ではない。髙島宏平の言葉だ。
●逆説的だが、伝統を守るためには、積極的に変化を受け入れ、自身も変化する必要がある。絶対に譲れないこと、守るべきものを把握できれば、何を変えなければいけないか、見えてくる。
●医学部受験で四浪したときの辛さは尋常ではなかったという。決して順風満帆ではないし、スーパーマンでもない。人生の節目で、「やりたいこと」「できること」「やるべきこと」を、正直に、順番にやっていくうちに、日本を代表する眼科医になり、多くの人々に光を与えた。
発想
●対象が持つ資源を再発見し、再構築して、世に知らせる。本来すべてのコミュニケーションが、そういったものであるべきだと思う。・・・ちゃんと相手の話を聞き、正確に把握し、自らの意見や考えを相手に伝わる形で、伝わるまで、伝え続ける。そんな一見当然だと思えることが実現できたら、日本は、今すぐにでも、閉塞から脱け出せる。
●北川さんは子どものころ、空にかかった虹を見て、「取ってこよう」と、自宅の裏山に登ろうとした。お母さんがそれを見て、「これに入れておいで」とビニール袋を渡してくれたらしい。美しく、ロマンチックなエピソードだ。
●iPS細胞は、困難な試行錯誤の連続の末に誕生した。「何とかなる」という明るさがないと、努力を維持できない。
●独創性とは、それまで存在しなかった「組み合わせ」について考え抜く力だ。そして、新しい組み合わせを発見したときの興奮と高揚をイメージすることで、わくわくする気持ちが生まれる。
●アイデアは、ぱっと浮かんでくると考えられているが、違う。成功に結びつくアイデアは、えんえんと考え続けるという地味な行為の果てに、泡(あぶく)のように、脳みその表面に上がってくる。
●「ちょうど」というキーワードが示す「最適の課題」を子どもに与え、脳に適度な負荷をかけるとともに達成感を通して「自己肯定感」を醸成する。
●ボトルネックを発見し、今できることを考え、プランを練り、行動に移しながら、次のポイントを決め、少しずつ、持続的に変化を実現していく。
ビジネス
●ある情報を、優先順位を考え、わかりやすく示すのは簡単ではない。緻密な編集と、ユーザーへの配慮によって、ヤフージャパンは、日本における検索エンジンの王者であり続けてきた。
●わたしたちは、農業という産業、職種に対し本当に敬意を払っているだろうか。農業は辛いものだ、泥や汗にまみれ、しかも休日がない、かっこ悪い仕事だと、どこかにそういった意識があるのではないか。日本の農業に必要なのは、補助金でも、自由化反対論でもなく、成功モデルだと木内さんは言う。
●「何故そんなことをやるのか」よりも「何故やらないのか」という問いの方に正当性があるとベゾス氏は考えている。徹底して顧客の側に立ち生産者と消費者を限りなく近づけるというアマゾンの基本戦略から学ぶべき事は多い。
●「八海山」は、酒と言えば灘、伏見という時代に、新潟の、周囲を山々に囲まれた辺鄙な町で誕生した。だが名声や伝統と無縁だったからこそ、常に進化への希求があった。端麗でありながら、しっかりした味がある「八海山」、飲むたびに「いい酒だな」と思う。造り手の気概が伝わってくる。
●我が国の医療、特に東京圏の今後は、崖っぷちにある。「亀田」は、行政に依存せず、地域と医療の連携を実現しようとしている。崩壊寸前の医療界に、まるで暗黒の海を照らす灯台のように、一条(ひとすじ)の希望の光を灯している。
●その核は、意外にシンプルだ。顧客と従業員の喜びと満足、それに尽きる。そのシンプルな原則を守り抜くために、シュルツ氏は、勇気と合理性に充ちたチャレンジを続ける。
●企画・実行されるプロジェクトは大胆そのものだが、会話は実に繊細で、ディテールを大切にする。『悪魔のように大胆に、天使のように繊細に』という有名な言葉を思い出した。時代の寵児は、常に両面を併せ持っている。
●想像力によって正統な危機感を抱き、戦略を立て、さまざまな決断を下す、それは優れた経営者に共通の特質である。
●「経営には奇策も裏技もない、社員のモチベーションを10%上げたら業績は上がり、逆に10%下げたらすぐに会社は傾く」。渡辺さんの言葉は厳しい。
●以前よりも今のほうが幸福だ、社員がそう思えるのが「会社としての成長」だと、塚越さんは確信している。
巷に溢れているビジネス書に比べて、本書から学ぶことの何と多いことか。
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