国際政治の歴史と現在を知ろうとするとき、必読の一冊・・・【山椒読書論(557)】
『大学4年間の国際政治学が10時間でざっと学べる』(小原雅博著、KADOKAWA)は、地政学について多くのことを教えてくれた。
①「地政学上の優位に立つ米国」、②「中国の厳しい地政学」、③「『海洋強国』を目指す中国」、④「『核心利益』と中国の地図」、⑤「海洋国家日本の地政学」、⑥「『地経学』の台頭」、⑦「自由で開かれたインド太平洋」――について、学ぶことができた。
①――
「欧州に比べて、米国は地政学的に恵まれている。東西を太平洋と大西洋という天然の要害によって守られ、南北は友好的な軍事小国である。また、欧州と東アジアを結ぶ太平洋と大西洋の間に位置する米国は、世界の貿易航路の巨大なハブとなって、世界の通商を牛耳った。欧州文明のエッセンスと『地理の恩恵』が融合した時、超大国への扉が米国に開かれたのである。こうして米国は、他の大国であれば本土防衛に用いる資源を世界秩序の構築や維持に振り向けることができた」。
②――
「(中国には)新疆やチベットなどの民族問題、香港の『一国二制度』や台湾統一の問題、朝鮮半島有事やそれに伴う難民流入懸念など、国境周辺の地政学リスクは多々ある。海上では、日中間で排他的経済水域が重なり合う東シナ海(境界未画定)や尖閣諸島の問題、南シナ海の領有権問題から第一列島線内外での米国との軍事的対峙まで緊張が続く。中国は、通常の地理的国境概念に加え、総合国力(特に軍事力)の変化によって拡張または縮小する『戦略的辺境(辺疆)』を重視し、海洋・宇宙・インターネット空間での優位を目指す」。
③――
「大陸国家である中国が『海洋強国』を目指すのはなぜか。第1に、中国経済のグローバル化の進展によって海外権益の保護やシーレーン防衛への要請が高まった。第2に、台湾、東・南シナ海など、周辺海域に存在する係争を解決するためには、『海上権力』を強化する必要がある。第3に、『(世界一の)強国強軍』という『中国の夢』実現のための道が『海洋強国』とされる。・・・中ロ関係改善によって陸の守りに必要とされた資源を海洋進出に回せるようになったことがその背景にある。中国の海洋進出によって、地政学リスクが増大している」。
④――
「中国は、国家主権や領土保全や国家統一を譲歩の許されない『核心利益』に位置付けており、台湾やチベットや新疆がそれに該当する。・・・2014年に中国で新しく刊行された地図には、南シナ海全域が付け加えられており、縦に長い地図となっている。そこには、中国が歴史的権利を主張する根拠とされる『九段線』が引かれている。・・・『九段線』が囲む海域は南シナ海の約90%を占める。中国政府はその海域を古くからの『中国の海』だと主張する。この独自の主張を退けた2016年のハーグの常設仲裁裁判所の裁定を『紙くず』と呼んで拒絶した」。
⑤――
「日本にとって、海は地政学上最大の要素である。第1に、国家の安全を守る海の重要性である。・・・第2に、離島の主権と安全の問題である。北海道・本州・四国・九州を含めた日本の構成島数6852島の9割以上が無人島である。この中には、ロシアと韓国に不法占拠されている北方領土や竹島、中国が領有権を主張する尖閣諸島も含まれる。近年、中国の海洋進出が活発化し、尖閣諸島周辺海域への中国公船の侵入も常態化している」。
「強国の条件の一つが海洋国家としての強さにある。日本は、陸地面積が38万km2(この「2」は本来、上付きで二乗を表す)の世界で61番目の広さの島国であるが、排他的経済水域(EEZ)に領海を合わせた海の広さは447km2(この「2」は本来、上付きで二乗を表す)となり、米国などに次いで世界6位の海洋国家である。・・・マハンが指摘した通り、海を持っているだけでは『海洋強国』とは言えない。領土の12倍近いEEZや延長大陸棚をどう活用するかが、日本が海洋強国となるカギを握る」。
⑥――
「地経学(Geoeconomics)が地政学に代わって脚光を浴びる。・・・ここでは、『経済的手段を用いて地政学的目的を実現する外交戦略或いは分析枠組み』と定義する。・・・ここで定義した地経学を多用する国家が中国である。中国は、共産党一党支配と国家資本主義という体制の下で、貿易や市場をコントロールし、グローバルな国有企業を統治し、観光や留学をも統制するなど、多種多様な経済的手段を持ち、非対称な経済相互依存関係の下、地経学上優位に立つ」。
⑦――
「(日本は)地政学的には、域外の海洋覇権国家(米国)との同盟によって地域全体(特に中国)との勢力均衡を確保することが現実的政策である。また、第一列島線上にある諸国家との提携も重要であり、これら諸国の海上法執行能力強化のための支援は海洋の『法の支配』に資する」。
国際政治の歴史と現在を知ろうとするとき、必読の一冊である。