野鳥撮影者にとって、実践的かつ具体的な最高の教科書・・・【山椒読書論(754)】
『野鳥写真の教科書――野鳥を魅力的に撮るために最初に読む本』(中野耕志著、玄光社MOOK)は、私のように出会った野鳥たちを記録写真として残すためにデジカメで撮影する人間には、いささかレヴェルが高いが、プロの野鳥写真家を目指そう、皆を唸らせるような野鳥の写真を撮りたいという向きには、実践的かつ具体的な最高の教科書と言えるだろう。
「朝靄がオレンジ色に染まった日の出直後、沼で休んでいたマガンの群れが一斉に飛び立った。野生のエネルギーが爆発する瞬間だ。Nikon D500 AF-S NIKKOR 500mmf/4E FL ED VR(750mm相当) 絞り優先オート(+0.5補正) F4 1/4000秒 ISO200 WB晴天」というキャプションが付いた「マガン 北海道 4月」の写真を見るだけで、著者の野鳥写真家としての凄さが分かる。
「筆者が求める野鳥写真や飛行機写真というのは至ってシンプルで、被写体の持つ美しさを素直に引き出すことであり、いわゆる写真的なテクニックや表現手法は追求していない。そして彼らの生息環境である自然風景と絡めることで、野鳥や飛行機の野性味あふれる魅力を効果的に演出できるような作画を心がけている。野鳥写真においては撮影機材の設定や使いこなしに関するテクニックというものは極めて少なく、むしろそこにはテクニックの本質は存在しない。野鳥を含む自然写真においては『Right Place, Right Time』、すなわち適切な場所に適切な瞬間に立ち会うことが最大のテクニックであり、それがすべてともいえる。ゆえに事前の情報収集が最も大切で、野鳥の基本生態や個体の性格を知るのはもちろんのこと、生息環境や気象、太陽の動きと光線の回り方など、撮影に必要なロケハンに時間をかける。カメラを持つのは最後の仕上げのようなものであり、撮影そのものにかける時間は比較的短い。・・・個々の撮影者が観察/撮影テクニックを磨いて野鳥を自分で探せれば他人と群れずに済むし、短時間で撮影できれば野鳥に与えるストレスを減らせるはずだ。なにより野鳥を自力発見したときの出会いに感動し、それを原動力に撮影までこぎつけることこそが野鳥写真の醍醐味であり、その感動や楽しみを知らずに撮影者の群れに加わるのはもったいない。撮り手の感動や被写体への理解度というものは作品ににじみ出てくるものであり、出会いへのプロセスを端折るほど撮り手の想いやオリジナリティーは弱くなっていくものだ。本書の狙いは己の観察/撮影テクニックを磨くことにより、他者と群れず過度な撮影圧をかけない野鳥撮影者が増えてくれることを目指している。野鳥を被写体としてだけでなく、野鳥や自然への理解を深め、それを分かち合える同志が増えることを切に願う」。
本書のいずれのページからも、著者の野鳥に対する熱い思いと、極力、野鳥に迷惑をかけたくないという気遣いがひしひしと伝わってくる。
巻末に、「守ってほしい野鳥撮影のルール」8カ条が挙げられている。
①野鳥撮影は一人もしくは少人数で
②鳥から距離を保って、ゆっくり動く
③自分のシルエットを(鳥に)小さく見せる
④先客(の撮影者)の邪魔をしない
⑤群れない、騒がない
⑥繁殖を邪魔しない
⑦トレイル(や木道)を外れない
⑧(営巣)写真や(珍鳥)情報をすぐにSNSにアップしない
これらを守っているつもりだったが、より厳格に励行せねばと反省頻りの私。