尼崎連続殺人事件と北九州連続殺人事件は、あまりにも酷似している――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その140)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(227)】
●『消された一家――北九州・連続監禁殺人事件』(豊田正義著、新潮文庫)
角田美代子主導の残忍極まる尼崎連続殺人事件の報道を目にした時、デジャヴュ(既視感)に囚われてしまった。2002年に発覚した北九州連続殺人事件と基本的な構図があまりにも酷似しているからだ。
『消された一家――北九州・連続監禁殺人事件』(豊田正義著、新潮文庫)で詳細に報告された内容は、実に衝撃的であった。
マンションの一室に7人監禁、通電制裁、食事・睡眠・排泄制限などなど。家族は抵抗も逃亡もせず、松永太という男の奴隷にされた。やがて、その男は「殺す者」と「殺される者」を指名し、自らの手は一切汚さず、妻の家族――妻の父、母、妹夫婦、姪、甥――を消し去ったのである。
松永に命じられるまま、その家族は互いに殺し合い、数を減らしていった。遺体はバラバラに解体された。そして、遂に妻一人のみを残し、妻の家族は消滅してしまったのである。
延々と続く制裁と殺し合いのごく一部を切り取ってみよう。「純子(妻)の証言によれば、普段は(理恵子<妻の妹>を)彩(理恵子の娘)といっしょに浴室に閉じ込め、起きているときは洗い場に二人並んで立たせ、眠るときは浴槽で向き合いながら体育座りをさせていたという。松永の指示が出ると、純子が浴室へ理恵子を呼びに行く。理恵子は様々な用件で酷使されたうえに激しく通電された。四つんばいでの両顎への通電がいちばん多かったが、陰部にも電気を流されて、何度もやけどを負っていた。そのつど、純子が手当てをした。その他に理恵子は、ガムテープで髪を束ねられて、はさみでバッサリ切り落とされたり、上半身は裸で下半身はパンティーのみ、両乳首に小さく切ったガムテープを貼られた姿で家事などをやらされていた(これは一時期、純子に対する制裁としても行われた)。つまり、静美(妻の母)亡きあと、奴隷ランクの最下位に置かれたのは理恵子だったのである」。この後、間もなく、松永の指示で、理恵子は主也(恵理子の夫)、純子、彩らに浴室で殺害されてしまうのである。
悪辣・卑劣な人間と、その人間に洗脳されてしまう人間。なぜ、こういう悲劇が繰り返されなければならないのだろうか。