夏、山小屋の周辺で出会った動物たちとの付き合い方――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その265)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(352)】
●『わたしの山小屋日記<夏>――動物たちとの森の暮らし』(今泉吉晴著、論創社)
『わたしの山小屋日記<夏>――動物たちとの森の暮らし』(今泉吉晴著、論創社)を読んだら、著者の真似をして、私も森の小さな山小屋に住みたくなってしまった。
この本は、山小屋の周辺で出会う動物たちとの付き合い方を教えてくれる。
例えば、「(山小屋の)窓のひとつは地面にうんと近くて、木の根元にあいたモグラのトンネルのすぐ前だったりすれば、たえず夢のような出会いがあることでしょう。なにしろ、モグラのトンネルは、トガリネズミからヤマネまで、森にすむあらゆる小動物の通路に、無料で開放されているのですから。・・・もちろん、窓のひとつは、手をのばせば木の幹にふれることができるくらい森の木と近いのがいいでしょう。そんな距離なら、嵐の夜、木の幹をつたって悠然と降りてくるヒメネズミやヤマネをまぢかに見ることができます。森の中に小さくて安全な通路や、かくれ場所をたくさんもっている小動物には、暴風雨はなんら恐れるにたらぬものだとわかります」といった具合である。
私は、山梨の渓谷沿いの細い山道で、一度だけヤマネに出会った経験があるが、もう一度、会いたいと胸を焦がしているのである。
――わたしが外出から帰ると、山小屋の前のグミの木の枝で、ムササビの赤ちゃんが震えていました。わたしは手をのばし、赤ちゃんを下からそっともちあげて掌にのせ、部屋に入りました。・・・チャメ(ムササビに付けた名前)は突然、毎日のように新しい行動能力を発現させ、驚異的な早さで成長しました。・・・わたしをソファーにすわらせ、わたしの左わきで毛づくろいし、遊び、そして眠りました。わたしが寝室で寝ていると、寝床にもぐりこんできては、土間へと走る行動をくりかえして、ソファーにくるようにさそったからです。それに、夕方暗くなって目覚めると、チャメは寝室の巣箱から廊下を走り、土間のすみに出ました。そして、滑空してわたしの肩へとやってきました。ミルクや食物をもらうためではなく、ソファーでいっしょに休むためでした。
――山小屋に池をつくって何年かして、「ケェーロ、ケェーロ、ケェーロ」と、聞きなれないカエルの声が響きわたりました。・・・おお、これは、子どものころ庭で聞いていたシュレーゲルアオガエルの鳴き声だ、と思いいたったのです。それは40年ぶりのシュレーゲルアオガエルとの再会でした。
――日が沈み、夕映えの西の空からそそぐ、穏やかな光があたりを照らす夕暮れ時、「キィー」というするどい鳴き声が森をつらぬきました。・・・ドロヤナギの大木の、幹の高さ3メートルほどのところに開いた洞の口から、つぎつぎにヤマコウモリが飛び出していました。わたしはその日、98匹のヤマコウモリがドロヤナギの洞から出ていくのを確認したのですが、幹が半ば腐った木が、動物の暮らしを守っていると知ったのです。
――夜に(幅が1メートルくらいの川に、5分もかけずにつくった)ミニダムを訪れると、10センチくらいのイワナが泳いでいたりして、おお、なんと、わたしはイワナのすみ場所をつくったのだ、とわかります。イワナはゆうゆうと泳げるよどみが手に入って大喜びでしょう。でも、夜の渓流につくったミニダムの縁でわたしが待つのは、カワネズミです。・・・カワネズミがミニダムの下にひょいと姿をあらわしました。ミニダムを乗り越えたところで、わたしを振り返って見ました。・・・石のダムでつくった小さなダム湖は、イワナのすみ場所になり、わたしとカワネズミの出会いの場所になりました。
<夏>を読み終るや否や、本シリーズの<秋>が無性に読みたくなってしまった私。