古代天皇家の出自と王朝交代の謎――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その153)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(240)】
●『養老元年の編集会議――日本正史誕生秘話』(佐々克明著、PHP研究所)
一定のルールの中で、想像力を飛翔させて謎に取り組むと、わくわくしてくる。この意味で、日本の古代史は最高に面白い。
「邪馬台国はどこにあったのか」、「神武天皇は実在したのか」、「倭の五王は誰か」――これらはそれなりに楽しめるテーマであり、これらを個々に論じた著作・論文は多いが、7世紀までの古代日本を丸ごと捉えた研究というのは意外に少ない。そんな中で、江上波夫の「騎馬民族征服王朝説」と水野祐の「三王朝交替説」を大胆に統合・発展させ、一本の筋を通したのが、鈴木武樹だ。この鈴木の説を引き継ぎ、さらに発展させたのが、『養老元年の編集会議――日本正史誕生秘話』(佐々克明著、PHP研究所)の著者・佐々克明である。
「古代天皇家は大陸北方のツングース系扶余族が朝鮮半島を経由して日本に渡来した騎馬民族征服王朝である」、「邪馬台国は崇神天皇に征服された」、「7世紀までに実に5回もの王朝交代――①崇神王朝(新羅系)、②応神王朝(百済系)、③継体王朝(新羅系)、④欽明王朝(百済・加羅系)、⑤天武王朝(新羅系)、⑥持統王朝(百済系)――があった」、「天智天皇と天武天皇は兄弟ではなかった」――この著者のこれらの仮説に、あなたは賛成できますか? かなり疑い深い人でも、読み終えるまでには完全に洗脳されてしまうだろう。
この著者は朝日新聞の記者出身だけあって、文章は抑制が利いており、論旨は簡潔明瞭だ。これが学者や作家だったら、これだけの内容をこのように200ページにはとても収め切れなかっただろう。この本の見かけはいかにも一般大衆向けであるが、中身のレヴェルはかなりのものだ。歴史好きにとっては堪らない、刺激的な本である。日本古代史はこの書に止めを刺すと言ったら褒め過ぎだろうか。いずれにしても、疾駆する騎馬民族の蹄の音が聞こえてくるようになったら、この壮大なロマンの世界から、あなたはもう脱出できない。