榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

働かない働きアリにも、ちゃんと存在意義があるのです・・・【山椒読書論(45)】

【amazon 『働かないアリに意義がある』 カスタマーレビュー 2012年6月29日】 山椒読書論(45)

働かないアリに意義がある――社会性昆虫の最新知見に学ぶ、集団と個の快適な関係』(長谷川英祐著、メディアファクトリー新書)には、「へーぇっ、そうなのか」と初めて知る昆虫生態学、進化生物学の新情報が鏤められている。

生物学では、ハチ、アリのように女王を中心に、コロニー(集団)で生活を営んでいる生物を「真社会性生物」と呼んでいる。シロアリ、アブラムシや、最近では、ネズミ、エビ、カブトムシ、カビの仲間にも真社会性生物がいることが分かってきたという。

彼らのコロニーは、繁殖を専門にする個体(アリでいうと「女王アリ」)と、労働を専門にこなす個体(ワーカー。アリでいうと「働きアリ」。全てメス)から成っている。「女王アリ」は、名前は偉そうだが、ひたすら卵を産むことに特化した「産む機械」と見做すこともできる。

アリの巣を観察すると、いつも働いているアリがいる一方で、ほとんど働かないアリが70%もいる。この働かない働きアリたちは、サボりたくて働かない怠け者なのだろうか。よく働く働きアリは、仕事に対して腰が軽い個体であり、なかなか働かない働きアリは、仕事に対して腰が重い個体で、メンバー間にこういう生まれつきの個体差があることは、コロニーが効率よく仕事を処理していく上で必要だというのだ。すなわち、仕事に対する反応度がコロニーの各メンバーで異なっていると、必要なときに必要な数のワーカーを臨機応変に動員することが可能になるからである。

次に、よく働くアリだけを選抜したコロニーと、働かないアリだけを残したコロニーを作って調べたところ、どちらのコロニーでも、一部の個体はよく働き、一部はほとんど働かないという、普通のコロニーと同様の結果が得られたのである。長期間、働かない働きアリは、一種のリリーフ要員で、他のメンバーが疲れて働けなくなったときはヘルプに入り、コロニーの危機を救うと考えられている。働かない働きアリを有する組織は、短期的な労働効率は低くても、長期的な存続率が高いため、長い時間で見ると有利というわけだ。

メスの働きアリたちが自分の子は産まずに、女王アリが産んだ子どもたちの世話や餌集めに精を出すのはなぜか、という謎にも迫っている。血縁度(遺伝子を共有する度合い)の高い、女王アリの子どもたちを育てるほうが、自分で子を産むよりも、遺伝子が後世に伝わる確率が高いというのだ。そして、このことが真社会性の進化をもたらしたというのだ。