榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

孔明の死、仲達の死、姜維の頑張り、劉禅の降伏・蜀の滅亡・・・【山椒読書論(606)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月17日号】 山椒読書論(606)

横山光輝のコミックス『三国志』(横山光輝著、潮出版社、希望コミックス・カジュアルワイド、全25巻)は、羅貫中の小説『三国志演義』→吉川英治の小説『三国志』の流れを汲んでいる。

第25巻 秋風五丈原」――。いよいよ、長篇漫画『三国志』全25巻も最終巻となった。作者の横山光輝は「秋風五丈原」というタイトルを付けているが、私なら、「愚かなり、劉禅」とするところだ。

「天地をゆるがす喚声とともに(蜀魏)両軍は激突した」。

「この戦は魏にとって開戦以来最大の被害となった」。しかし、孔明はあと一歩というところで、仲達を取り逃がしてしまう。

「司馬懿(仲達)の読みの通りであった。孔明は持久戦に便利な五丈原に陣を移した。それでも(魏の本拠)長安はぐんと近くなっていた」。

孔明は、信頼する後継者・姜維に、天を仰ぎながら、こう答える。「弱気で申すのではない。これは天意なのだ。生あるものは、かならず滅ぶ。悲しむことではない。また死を恐れるものでもない。自然に帰っていくのだからのう」。孔明が死をどう考えていたかが、よく分かる。

自分の死期を悟った孔明は、姜維に後を託す。「これはわしが今まで学び得たものを記したものだが、いつの間にか24篇になった。我が兵法、わしの言、わしの発明したもの、これから作らせようと思っているもの全てを記してある。これを授けるは、そなた以外にない。これを役立てて蜀のために働いてくれい」。

「わしの死後,喪を発してはならぬ。わしが死んだと知ったら、仲達は総力をあげて押し寄せて参るであろう。こんな時のために、わしは2人の工匠にわしの木造を作らせておいた。これを用いて敵味方に孔明なお在りと思わせておくがよい。もし仲達が押し寄せて参ったら、その木像を陣の前に押し出せ。仲達は驚いて逃げるであろう」。

遂に、巨星(孔明)墜つ。「時に蜀の建興12年8月23日、寿命54歳」。

孔明が死んだと思い、総攻撃の先頭に立って攻め寄せた仲達は、孔明の木像を見て、「げーっ、孔明!」と叫び、一目散に逃げ出す。「今まで何度となく孔明に痛い目にあわされた仲達は、心の底から孔明を恐れていた」。これが世に言う「死せる孔明、生ける仲達を走らす」である。

「孔明が死んだとたん、この騒ぎであった。これは蜀の人材の乏しさを物語り、孔明一人が生きている間、魏も呉も蜀に手出しできなかったのは、孔明の偉大さを証明するものであった」。

魏では曹叡が病死し、跡を8歳の息子・曹芳が継ぐ。権力闘争を勝ち抜いた仲達が、遂に魏の実権を握る。だが、仲達にも死が訪れる。「諸葛孔明・・・なんとすばらしい男であったろうか。あの世ではゆっくりと教えを乞いたい」。しかし、仲達の息子たち――司馬師、司馬昭――の権力は揺るぎないものとなっており、後に、昭の子・司馬炎が魏に代わる新国家・晋を興すことになる。

一方、蜀は姜維一人の頑張りで何とか支えられていたが、劉禅が魏に降伏してしまう。愚かなり、劉禅! ここに、建国後43年にして蜀は滅亡したのである。「定軍山に眠る諸葛孔明は、それをどのような気持ちで眺めていたことであろう」。

「(降伏した)劉禅は安楽公として魏から捨て扶持をもらい、何の野心も持たず、65歳まで、のんびり暮らしたという」。愚かなり、劉禅!