榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

日本百名山を一筆書きに歩いて踏破した前人未到の記録・・・【情熱的読書人間のないしょ話(89)】

【amazon 『グレートトラバース 日本百名山ひと筆書き』 カスタマーレビュー 2015年6月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(89)

A社で「プレゼンテーション術」の研修、facebookで「友達」になった通訳ガイドの男性とのランチ、銀座の書店巡り、若い人たちとの「人生を熱く語る会」――と、今日も充実した一日でした。帰宅すると、「ね、これ見て! あなたの好きなヤマボウシで木全体が真っ白になっているのよ」と女房から携帯電話の写真を見せられました。ヤマボウシがこのような咲き方をするとは、どういうことでしょうか? 因みに、本日の私の歩数は15,846、女房は10,816でした。

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閑話休題、『グレートトラバース 日本百名山ひと筆書き』(田中陽希著、NHK出版)は、私たち夫婦憧れのプロ・アドヴェンチャー・レーサー、田中陽希が、日本百名山を一筆書きに歩いて、海などはカヤックを漕いで踏破した前人未踏の記録です。

「山頂からは南アルプスを代表する山々が見えた。赤石岳から仙丈岳まで肉眼で確認できる。連日天候に恵まれている幸運に感謝しながら、1時間ほど山頂で過ごし、今日の目的地の百間洞山の家を目指して歩き始めた。聖岳までのルートよりも、山小屋までのルートのほうが危険な箇所が多く、しかもそれが長い距離で続く。地図上の等高線の密度がそのことを物語っていた。実際のルートは、急斜面のトラバースと細い稜線が連続していた。これがもし早朝だったら、僕の今の技術では歩けないだろう。一歩踏み外せば北側の谷へと真っ逆さまだ。トラバースの緊張と恐怖心で体力の消耗が激しく、さらに雪の重みが拍車をかける。集中力を保つためにも細かい休憩を挟みながら進み、なんとか予定の15時前に山小屋にたどり着くことができた。雪渓で最も注意しなくてはならないのは急斜面のトラバースだ、と学んだ一日だった。南アルプスに入って、雪の状況にも慣れてきたが、まだまだ南アルプスの核心部には足を踏み入れていない。実戦で経験を蓄積しているが、経験すればするほどこの時期の登山のリスクについて考えさせられる」。1座ごとの登山と登山口に至る歩きをNHK・BSで放映中の「グレート トラバース――日本百名山ひと筆書き踏破への道」で見るたびに、田中の超人的な肉体と精神力に敬意を深めてきましたが、田中のこの挑戦者としての謙虚さにも惹かれてしまいます。

NHK撮影班と著者とのやり取りも興味深いものがあります。「僕が旅を計画してから約半年後、2013年9月に、NHKのプロデューサーとディレクターに出会った。そのときはまだ僕の旅が番組になるのかどうかは全くわからない状態で、7か月間も追いかけること自体が今までにないことだといっていた。旅の出発2か月前となった2014年1月末、・・・ひとつの約束を交わした。『我々はドキュメンタリーとして追いかけます。命に危険が及ぶときだけは、仕事を放棄してでも助けますけれど、我々撮影班は黒子だと思って、陽希君はひとりで旅をしてください』。本当に僕が死にそうになってしまったら仕方なく助けるが、それ以外は一切の手助けも情報の共有もしない、という撮影班からの意思表明だった。もちろん、撮影班が僕の宿泊費や食費をサポートすることもない。僕はもともとひとりで旅立つ予定だったので、望むところだ。・・・旅が始まり、屈強なアスリートたちで構成された撮影班が、僕の毎日をカメラに収めていた。僕は自分の荷物だけだが、撮影班はカメラ機材などもあり、かなりの重量を背負っていたと思う。同行する歩荷のスタッフは、40kg以上のザックだったのではないだろうか。・・・北アルプスへ入る頃から、撮影スタッフとの間に少しずつ違う気持ちが生まれ始めた。『連帯感』というか『一体感』というか。距離は離れていても、同じリスクを背負って旅を続けているという共有感だと思う。・・・すでにこの日本百名山ひと筆書きは、僕だけの旅ではなく、僕を見てくれている多くの人たちとともに進んでいる旅だと実感したからだ」。まさに、そのとおり、私たちもテレビの前で声援を送り続けてきたのです。

「『ここからが本番だ!』。気を引き締めた。これまで風に悩まされ続けたが、最後のわずかな時間だけ利尻山が僕を迎えてくれているような気がした。ほぼ無風の中、危険な場所を抜けた先に、お社が見えた。午前7時20分、100座目の利尻山に登頂! 4月1日に屋久島をスタートして、たくさんの山々を乗り越えて、209日目にようやくたどり着いた頂き。『着いたぁ!』。登頂の瞬間は少しだけ胸が熱くなったが、安堵感から自然と笑顔になった。・・・山頂から雲で見えない向こうの世界に向かって、『ありがとうございました!!』と叫んだ。多くの人の心に届くように。100座目の頂きに立ち、7800kmを208日と11時間で踏破。長い旅が終わった」。陽希君、おめでとう!