榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

藤井聡太という途方もない人物と同時代に生きている幸運に感謝したい気持ちになりました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2105)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年1月17日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2105)

キンカチャ(写真1)、シンビジウム(写真2、3)、ボケ(写真4)の花が咲いています。チャイニーズ・ホーリー(クリスマス・ホーリー。写真5、6)、コミカン(写真7)が実を付けています。サンシュユ(写真8)、マンサク(写真9)の蕾が膨らんできました。

閑話休題、『AIを超えた男 藤井聡太――証言で読み解く進化の軌跡』(歯黒猛夫著、彩流社)は、藤井聡太ファンには堪らない一冊です。

「将棋はほとんど運に左右されない。その点においては、ディールや配牌が勝敗に影響を与えるトランプや麻雀とは異なる。勝負を決めるのは棋士の頭脳だけ。しかも、一手指すのに、先の先、そのまだ先を読む思考能力には恐れ入ってしまう。さらに、プロになるための厳しさは、あまたあるプロ競技の中でも群を抜いているといえよう」。

「このトーナメント戦を観戦していた渡辺明棋王(当時)は藤井の印象を、『通常の倍くらいのスピードで頭を回転させて、倍くらいの手を読んでいる』と語り、その才能を絶賛する。<単純にあの持ち時間の中で読めちゃってるんです。普通の棋士よりクリアに。・・・後で棋譜だけ見た人は、持ち時間5分の早指しで組み立てた将棋という印象は受けないと思います>」。

「この対局を観戦した谷川浩司九段は、敗れはしたものの藤井の『大局観』は光っていたと評価し、次のようにコメントしている。<本局は長手数の大熱戦でしたし、将棋大賞の名局賞の候補になるのではないでしょうか。・・・豊島名人も、結果は勝っているものの、内心では危機感を持ったことでしょう>」。

「世間では『天才棋士』『弱点が見当たらない』といわれる藤井。多少の壁やスランプがあったとしても、比較的順風満帆な棋士人生を邁進している。そう捉える人は少なくないはずだ。だが、師匠の杉本(昌隆)によれば、藤井は『努力家』だという。<才能がある人、天才タイプの人っていうのはすごく器用なんじゃないかと、昔、勝手に思っていたときがあるんですけど、(藤井は)器用に立ち回ろうと全然していない。効率の良さを求めないから、普通の言葉で言うと、地道な努力を積み重ねてきたから、今があるのかと思います。ただそれを努力と感じさせない、将棋に対する好奇心があるから、ずっと歩み続けて向かい合えるのかとも思います。本当に先を見ているんだなと、もっともっと目標は先にあるんだなと思いました>」。

「同じく『努力』という言葉で藤井を評するのが、永瀬拓矢二冠(当時、叡王・王座の二冠)だ。藤井と研究仲間であるが、新型コロナウイルスの感染拡大で対局が2カ月以上中止になっていたときも、藤井と20回以上ネットで練習対局を行っている。<今の藤井さんは努力の結晶なんですね。(負けに)反発する気持ちではなくて、受け入れる。それを自分の中で栄養にしている印象があって、藤井さんは、ただただ将棋を強くなろうとしている。それが途方のない道でも、藤井さんは強くなろうとしているのが核に、中心にあることかなと思います>」。

「(リーグ戦の第2局で対戦した上村亘は)見ている側が焦る状況だったとしても、藤井にとってそれは、勝敗を離れた『将棋の真理を追求する』時間なのだと語っている。<棋聖戦や王位戦の戦いぶりを見て、藤井さんが大事な場面では湯水のように持ち時間を使っているのを皆さんお感じになったと思いますが、これはタイトル戦に限ったことじゃない。藤井さんは普段の対局から徹底的に時間を使い切って自分の糧にしているのです。形勢のいかんにかかわらず、どの局面でも最善手を探すというスタンスが確立しています>」。

「惜しくも決勝進出を逃した佐藤(天彦)だったが、藤井将棋の魅力について次のように述べている。<このまま順調に成長していけば、藤井さんが複数の冠を席巻する時代が遠からず来るのではないか。彼は、現在8つあるタイトルの過半数だって狙えるぐらいの実力を備えていますから。もちろん、対戦する棋士の立場からすると、藤井さんの計算力は脅威に感じます。ただ、藤井さんは圧倒的に将棋の世界を面白くして、深みを与えてくれている。今まで見たことがない勝ち方や指し手は、一人の娼妓ファンという立ち位置で見ると、ものすごく刺激的で面白いなと思いますね>」。

「(上村亘は)『フルマラソンのゴール目前で、一瞬で抜き去られたような感覚。常識では計れない、短距離走者のようなラストスパートだ』と、逆転勝ちを収めた藤井の終盤力を評している。<私は今年3月の王位戦挑戦者決定リーグで藤井七段と対局した。優位に立ったと感じながら、敗れた。残り時間が少なくなり、追い詰められているはずの藤井七段が、正確な手を次々に指してくる。形勢は不利なのにミスを犯さない。これでだんだん重圧をかけられ、逆転された>」。

「とどまることを知らない藤井の快進撃について、谷川浩司九段と佐藤天彦九段は、将棋界の未来を託すような言葉を残している。<藤井将棋というのは、とにかく華があってですね、私たち棋士が見ていても、どんな手が飛び出してくるか分からないっていう、ワクワク感を感じるんですね。今は将棋を観て楽しむファンの方が増えてきていますので、そういう方たちにですね、将棋の面白さ、将棋というのはこんなに魅力的なんだということを、これからもアピールしてほしいなと思いますね>(谷川浩司九段)。<これからどうなっていくんだろう、どこまで伸びるんだろう、どれぐらいまた面白い将棋を見せてくれるんだろうっていうところからすると、もう期待値がストップ高というか、もう本当に全冠制覇を狙えそうだし、その内容的にも、これからどんどん面白い将棋を見せてもらえそうなので、そういう意味では、まあ楽しみですね>(佐藤天彦九段)」。

「報知新聞社の北野新太記者が、インタビューの途中に興味を持ち、『行ってみたい国、街、場所は?』と藤井に聞いてみた。藤井は対局中さながらに長考したそうだ。時間がもったいないので、北野さんが宿題にしたところ、後日メールで返事が届いた。そこにはこう記されていたという。<難しいですが、敢えて挙げるなら未来です。場所ではないですが(笑)。テクノロジーの進歩によって社会がどう変化するのか見てみたいです>」。

藤井聡太という途方もない人物と同時代に生きている幸運に感謝したい気持ちになりました。