榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『沈黙の終わり』には、心底、痺れました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2381)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年10月24日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2381)

毎朝、ヒヨドリ(写真1)の鳴き声で目が覚めます。キク(写真2~5)、コスモス(写真6)が咲いています。

閑話休題、『沈黙の終わり(上)』(堂場瞬一著、角川春樹事務所)には、心底、痺れました。

長く大手の東日新聞の編集委員を務めた松島慶太は、定年が間近い59歳になって、自ら望んで千葉県のミニ支局の柏支局長となり、取材に飛び回っています。柏支局には、他には入社3年目の若手記者・梶山美菜しかいないからです。

担当地域内の野田市今上で7歳の少女の殺人・死体遺棄事件が発生します。江戸川沿いの田園地帯です。ところが、許せぬ少女殺害事件だというのに、警察の動きが鈍いことに松島は違和感を覚えます。

東日新聞本社社会部への異動の内示を受けている埼玉支局県警クラブ・キャップの古山孝弘は、野田の事件を知り、4年前の1年生記者だった時、埼玉県吉川市上内川で起きた8歳の少女行方不明事件を思い出し、奇妙な不安に近いような気持ちに襲われます。「行方不明になった女児の家は、江戸川を挟んではいるが、野田市の現場とはさほど離れていない。直線距離にすると、五百メートルほどだ。ほぼ同じ生活圏と言っていいのではないか?」。

引っ掛かりを感じた古山は、去年一緒に仕事をした松島に電話を入れ、吉川の事件の資料を送ります。「『この資料を見ているうちに、思い出したんだ』。『何をですか?』。『大昔、流山で七歳の女の子が殺された事件があったんだ』。『大昔っていつですか?』。『俺が社会部に上がる直前だから、もう三十年以上前だ。一九八八年――昭和六十三年だな』。『流山ですか・・・』。『しかも、遺体の発見現場は江戸川の近くだった』。古山は急に鼓動が速くなるのを感じた。流山と言えば、野田と同じく、江戸川を挟んで吉川の対岸である。『現場は、流山市谷――常磐道の流山インターチェンジのすぐ近くだ』。・・・ふと、古山は恐ろしい想像に襲われた。もしも三十年以上前の事件と四年前の女児行方不明事件、さらに今回の女児殺害事件が同一犯によるものだとしたら・・・犯人は三十年以上も野放しになっていて、犯行を積み重ねてきたのかもしれない。だとしたら、自分たちが見落としているだけで、同じような事件がまだ埋もれているかもしれない。それを掘り出したら、いったいどうなる?」。

私事に亘るが、奇しくも、この3つの現場はいずれも、柏と流山の市境に住んでいる私にとって、貴重な野鳥観察場所なのです。

松島と古山は手分けをして、地道に、ある時は大胆に、真相追及に邁進します。警察や社内から警告や脅し、圧力を受けるが、却って、それらは二人の闘志を掻き立てるだけでした。

やがて、3件だけでなく、7件も同様の事件が起きていたことが分かります。「●1988年:流山で殺人事件 被害者・金城真美 7歳(小2) ●1992年:三郷で殺人事件 被害者・佐島菜々子 7歳(小1) ●1999年:越谷で行方不明事件 被害者・浜浦美南 8歳(小2) ●2005年:柏で行方不明事件 被害者・嶋礼奈 6歳(小1) ●2011年:松伏で行方不明事件 被害者・塩谷真弓 9歳(小3) ●2017年:吉川で行方不明事件 被害者・所あさひ 8歳(小2) ●2021年:野田で殺人事件 被害者・桜木真咲 7歳(小1)」。

「『共通点は、被害者が全員六歳から九歳、小学校低学年の女児ということですね。行方不明になった時の状況も似ています』。『塾帰り、か』。『というより、通っていた塾が全部同じ――永幸塾なんですよね』」。永幸塾というのは、1都3県にチェーンを持つ学習塾です。

警察関係者にもぶつかっていきます。「『途中で捜査が緩んだんじゃないですか』。松島は遠慮なく指摘した。『緩んだというか、真面目に捜査する必要はないと、上の方から指示があった』。『松島さん、あんた、自分が何を言ってるか、分かってるのか』。小野が声を荒らげた」。

記事にするのは止めるべきとの社内の反対論を押し切って、二人は、これまで調べて裏が取れたことを記事として掲載することに成功します。「当然、この件は東日の特ダネである。ここまでしっかりした特ダネを書いたのは久しぶりだった。・・・もちろんこれは基本的に古山の記事なのだが、上手くヘルプできたと思う。そしてこれからは、こちらが主役だ。古山は間もなく本社に異動し、この件にはタッチできなくなる。地元の記者として、自分がしっかり続報を書いておかなくては」。

野田署長の小野が自殺したという情報がもたらされます。松島が裏を取りにいった、あの小野ではありませんか。

こうして書評を書いていても、下巻を早く読みたくて、心がざわざわしています。