青い壺は見た!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3609)】
【読書の森 2025年2月21日号】
情熱的読書人間のないしょ話(3609)
マガモの雄と雌(写真1、2)が群れています。ヒヨドリ(写真3)をカメラに収めました。エンドウ(写真4、5)が咲いています。夕刻、撮影助手(女房)から、珍しいことに、落花生を食べ尽くしたシジュウカラ(写真6)がメジロ用のリンゴを啄んでいたわよ、との報告あり。
閑話休題、青い壺は見た! いったい、何を見たというのか。無名の陶芸家が偶々焼き上げた会心作、気品のある美しい青磁の壺がひょんなことから陶芸家の手を離れ、次々と人手に渡っていく過程で、その時々の持ち主たちのさまざまな人間模様を、壺は目の当たりにしたのです。
『青い壺』(有吉佐和子著、文春文庫)を読みながら、思わず、何度も頷いてしまいました。そういうことってあるあると思わされることが次から次へと、何事もゆるがせにしない有吉佐和子の鋭い観察眼で生々しく描き出されているからです。
無名の陶芸家の厳しい現実、定年退職後の夫と妻との心の擦れ違い、お見合いを断りにきた女の意外な告白、両親が健在なのに相続を目論む子供たち、兄夫婦から衰えた母を引き取る独身の娘、客扱いに苦労の絶えない小ぢんまりとしたバアのママ、戦前の上流生活を懐かしむ老婆、古い洋館のようなレストランでの夫婦にとって初めての贅沢な晩餐、老女たちの50年ぶりのクラス会の幻滅、野菜嫌いの小学生たちに何とか食べさせようと苦闘する若き栄養士、54年ぶりに母と再会したスペイン人修道女の落胆、老齢掃除婦の極楽、美術鑑定家のいかがわしさ――。
十余年後に、陶芸家が自分が焼いた青磁の壺に再会する場面で一件落着と思いきや、然(さ)に非ず。有吉の達者なストーリーテリングに舌を巻きました。