イスラムに関する情報・知識は宮田律に教わるのが一番!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3970)】


イスラムに関する情報・知識は宮田律に教わるのが一番と確信しています。
『イスラムの世界史――50のストーリーでつながりがわかる』(宮田律著、中央公論新社)のおかげで、イスラムの世界史の全体像を俯瞰することができました。
個人的に、とりわけ勉強になったのは、●スンニ派とシーア派は何が違う? ●十字軍はイスラム文化からヨーロッパに何を持ち帰ったか、●イスラムの英雄、サラディンとは、●コロンブスの大いなる誤解、●「アラビアのロレンス」の後悔、●中東地域の混乱をつくったサイクス・ピコ協定、●ユダヤ人排斥はどのようになされたか――の7つです。
●スンニ派とシーア派は何が違う?
イスラム共同体は、預言者ムハンマドの従弟で、ムハンマドの娘婿である第4代カリフのアリーの死後、主流のスンニ派と少数のシーア派に分裂。スンニ派ではカリフは選ばれた預言者の後継者であり、イスラム共同体の政治的・軍事的指導者(ムハンマドのような宗教的権威を持っていない)であるのに対し、シーア派では、イスラム共同体の指導権はアリーの子孫であるイマーム(アラビア語で指導者の意。宗教的権威を有している)にあると考える。
イスラムでは神の唯一性(タウヒード)を強調する一方、非ムスリムに寛容な姿勢を説く。キリスト教徒、ユダヤ教徒は「啓典の民」として認められ、「被保護民(ズィンミー)」としてムスリム社会への参加者と見做された。【恥ずかしながら、このことは本書で初めて知りました】
●十字軍はイスラム文化からヨーロッパに何を持ち帰ったか
十字軍によるイスラム世界との交易拡大(香水、金、宝石、革製品、絹など)は、イタリアの諸都市の台頭をもたらし、また文化的な交流は、12世紀ルネサンスや14世紀ルネサンスの背景となった。【12世紀にもルネサンスがあったとは!】
●イスラムの英雄、サラディンとは
サラディンの行動は異教徒の攻撃からイスラム世界を守る「ジハード(聖戦)」に貢献するもので、今でもイスラム世界を救った人物として語られている。敬虔なムスリムとしても知られ、学者や宗教指導者たちを支援し、イスラム学の発展にも貢献した。モスクやマドラサ(教育施設)の建設など宗教施設の拡充にも努めた。学問や芸術を奨励し、イスラム生誕の頃の宗教的情熱や、至純なイスラムを取り戻そうと考えた。
サラディンはエルサレムを支配するようになったが、十字軍で敵対してきたキリスト教徒たちを大事に扱い、またユダヤ人コミュニティも手厚く保護した。
サラディンは、イスラムの学識にも優れ、イスラムが説く正義、慈愛、知恵による統治を行ったと評価されている。
●コロンブスの大いなる誤解
コロンブスは、十字軍と同様に、イスラム勢力との戦いをその活動の目標に据えていた。
コロンブスの「アメリカ大陸発見」(1492年)により、スペインは、プランテーション農業をカリブ海地域まで拡大。その産物であるトウモロコシ、ジャガイモがヨーロッパ市場に定着し、人々の食生活に変化をもたらした。
●「アラビアのロレンス」の後悔
1916年10月、ロレンスはアラビア半島に派遣され、オスマン帝国に対する「アラブの反乱」を宣言したフサイン・イブン・アリーや、彼の息子であり、「アラブの反乱」を実際に指導していたアブドゥッラー(次男)やファイサル(三男)と出会う。フサインは預言者ムハンマドの家系の生まれ。
ロレンスには、イギリス帝国主義の目的のためにアラブ人を利用したことに悔恨の念があった。イギリスにはアラブ人国家建設を支援するつもりは毛頭なく、オスマン帝国のアラブ人地域で採れる石油や、小麦などの穀物への戦略的、経済的野心があったのである。わずかながらアラブ人に罪悪感を覚えたイギリスは、自らの委任統治領であったイラクの国王にファイサルを据えたが、このイラク王国は人心を掌握できず、1958年の軍事クーデターで崩壊する。【映画『アラビアのロレンス』に登場するファイサルたちのアラブ社会における位置づけはどうなっているのか気に懸かってきたが、本書のおかげで、その疑問が氷解しました】
●中東地域の混乱をつくったサイクス・ピコ協定
パレスチナ問題、クルド問題など中東地域の民族・宗派問題による混乱や紛争をつくり出したのは、1916年に英仏露の間で秘密裏に結ばれたサイクス・ピコ協定と言っても過言ではない。
●ユダヤ人排斥はどのようになされたか
ヒトラーは『わが闘争』の中でユダヤ人を邪な人種として捉え、ナチスの反ユダヤ主義はヨーロッパに旧来あった「反セム主義(アンティセミティズム)」という宗教的な偏見に人種的な蔑視を加えていった。ユダヤ人とは本来ユダヤ教を信仰する人々のことだが、ナチスはユダヤ人を宗教集団ではなく人種として捉えたのである。ナチスの反ユダヤ主義は、ドイツ民族の利益を極端に優先させるために、「劣等」な民族であるユダヤ人がドイツ民族の「害悪」になっていると強調し、差別や迫害の対象としていくという反道徳的なものであった。
期待を裏切らぬ一冊です。
