榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

一生の間に打つ鼓動の回数は、大きなゾウも小さなネズミも20億回だ・・・【山椒読書論(95)】

【amazon 『ゾウの時間 ネズミの時間』 カスタマーレビュー 2012年11月6日】 山椒読書論(95)

ゾウの時間 ネズミの時間――サイズの生物学』(本川達雄著、中公新書)を手にすると、初めて読んだ時の衝撃が鮮やかに甦ってくる。

「ゾウさんも ネコも ネズミも 心臓は ドッキン ドッキン ドッキンと 20億回 打って止まる」と言われたら、誰でも、そんな馬鹿なと思うだろう(これは著者が作詞・作曲した「一生のうた」の1番である)。

これは、言い換えれば、●ゾウのように体重が大きな動物はゆっくりと心臓が鼓動し、ネズミのように体重が小さな動物はせかせかと忙しく鼓動している、●一生の間に打つ鼓動の回数は、動物のサイズに関係なく同一である、●ゾウは長生きし、ネズミは短命であるように、動物の寿命は鼓動を打つスピードと反比例している、●ゾウにとって、ネズミにとっては、ヒトが感じる時間(物理的時間)とは別の時間(生理的時間)が流れている――ということを意味している。

さらに、動物の行動圏の広さや棲息密度も、サイズと一定の関係があるというのだ。

こういう「サイズの生物学」は生物学の素晴らしい成果であるが、「動物の世界観について考えるようになった。おのおのの動物は、それぞれに違った世界観、価値観、論理をもっているはずだ。たとえその動物の脳味噌の中にそんな世界観がなくても、動物の生活のしかたや体のつくりの中に、世界観がしみついているに違いない」、さらに、「サイズを考えるということは、ヒトというものを相対化して眺める効果がある。私たちの常識の多くは、ヒトという動物がたまたまこんなサイズだったから、そうなっているのである。その常識を何にでもあてはめて解釈してきたのが、今までの科学であり哲学であった。生物学により、はじめてヒトという生き物を相対化して、ヒトの自然の中での位置を知ることができる」ということにまで思いを馳せている点が、この著者の凄いところだ。