榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

予期せぬことに直面したときのダンゴムシと私の共通点・・・【山椒読書論(168)】

【amazon 『ダンゴムシに心はあるのか』 カスタマーレビュー 2013年3月29日】 山椒読書論(168)

ダンゴムシに心はあるのか――新しい心の科学』(森山徹著、PHPサイエンス・ワールド新書)を読んで最初に感じたのは、この著者は、ひょっとすると3名の偉大な動物行動学者――コンラート・ローレンツ、カール・フォン・フリッシュ、ニコ・ティンバーゲン――に続く第4の人物になるかもしれないなということであった。

学界の「心は発達した大脳にのみ宿る」という考え方に疑問を抱いた著者は、「動物が行動を自分で選択するという様相を実験で提示することが必要」と考え、ダンゴムシを使ったユニークな実験に取り組み、遂に、「ダンゴムシには心がある、さらに知能もある」という結論に到達したのである。著者が研究する「心の科学は、大脳の特徴とされる心や知能を、大脳を持たない、一般的に下等といわれる動物において見いだす方法論を提示できそうです。それは、知能の遍在性を主張することです」。そして、自分が直面している問題を認識し、それを解決しようと行動する能力は「知能と言わざるを得ないでしょう」と、自信を示している。

多重T字迷路、行き止まり、水包囲アリーナ、環状通路といったさまざまな実験を通じて、「相手(ダンゴムシ)に潜む見えない能力、すなわち『心による、余計な行動の抑制=潜在化』」が徐々に明らかにされていく。

「心の働きとは、『状況に応じた行動の発現を支えるために、余計な行動の発現を抑制=潜在させること』です。そしてその働きは、私たち観察者が、観察対象を『未知の状況』に遭遇させ、『予想外の行動』を発現させることで確かめられます」。ダンゴムシにとって既知の状況下では、例えば、餌を食べたいときは、前進するといった他の行動を自律的に抑制(潜在化)して摂食に集中するが、一方、実験者によって行き止まりの通路に置かれたり、嫌いな水に囲まれた場所に置かれたりといった未知の状況下では、壁を登ったり泳いだりして脱出するなどの、普段は潜在化している予想外の行動を取ることを実験で確かめたのである。

草むらや庭石の裏などに潜む、あの黒光りする節足動物・甲殻類のダンゴムシ(オカダンゴムシ)が、未知の状況に陥ったときに予想外の行動を取るのは、ダンゴムシに心がある証拠だというのだ。私も、思いがけない状況に追い込まれたとき、予想外の行動を取ることによって、何とか危機を切り抜けてきたことを思い出す。