榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

旧・東ドイツ出身の地味な女性物理学者がドイツ首相に上り詰めた謎・・・【情熱的読書人間のないしょ話(454)】

【amazon 『世界最強の女帝 メルケルの謎』 カスタマーレビュー 2016年7月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(454)

千葉・流山の新川耕地での水辺生物観察会に参加しました。新川耕地は水田と昔ながらの水路が残されているため、生態系が守られ、生物多様性が保たれています。田の上をダイサギが飛んでいます。滅多に見かけないナマズの幼体が見つかりました。ちゃんと長い口髭があります。ギンブナ、トウキョウダルマガエル、ウマビル、ニホンアカガエル、ヌマガエル、タニシ、アメリカザリガニ、ミズスマシを観察することができました。水田などに棲むウマビルは血を吸いません。因みに、本日の歩数は10,496でした。

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閑話休題、私はかねがね、旧・東ドイツ出身の物理学者、アンゲラ・メルケルがドイツの首相に上り詰め、さらに、EUの強力な牽引者として存在感を増しているのはなぜか――こういう疑問を抱いていたのですが、『世界最強の女帝 メルケルの謎』(佐藤伸行著、文春新書)がこれらに対する明快な回答を与えてくれました。

「メルケルは1954年7月17日、ハンブルクで生まれた。両親とともに東ドイツに移ったのは、生後数週間のことで、嬰児のメルケルは手提げ籠に入れられての旅だった。その後のメルケルは1990年10月の東西ドイツ統一によって東ドイツが消滅するまで東の市民として生きた。西で生まれながら東で育つという、異色の生い立ちである。メルケルは政治の表舞台に立つまでの35年間、厳しい社会主義独裁体制の中で育ち、マルクス・レーニン主義の教育を受け、短い期間ながら結婚生活も送った」。メルケルの父はプロテスタントの牧師でした。メルケルの最初の結婚生活は3年で終わりを告げ、その後、世界的な物理学者と再婚しました。

「メルケルは『深淵に潜む龍』だった。長い間、龍は湖底深く、時をうかがう。だがいったん時を得るや、龍は風雲を呼び、稲妻とともに天に昇る。メルケルは35年間、東ドイツという水の底で、泥に埋もれながらじっと時局をうかがっていたようだ。いつも野暮ったい服装をし、ファッションなどにはまったく興味はなく、ヘアスタイルにも無頓着、まるで運動神経はないが、抜群に頭脳の切れる学究肌。総合教育技術上級学校時代は『CDU(キスをされたことのない女子の会)』と陰で男子に揶揄されるほど、地味だった」。

「『東ドイツ社会主義の寿命は長くはない』――。メルケルがそう確信してからわずか3年後、ベルリンの壁が崩壊した」。これを千載一遇の好機と捉えた35歳のメルケルは、突如、政治的人間としての道を歩み始めるのです。

政界の実力者たちにかわいがられたメルケルは、36歳で全ドイツ連邦議会議員初当選を果たし、女性・青少年相、環境・自然保護・原子力安全相、CDUの党幹事長、党首――と、出世の階段を駆け上っていきます。そして、遂に、「2005年11月22日、連邦議会はメルケルをドイツ連邦共和国の第8代首相に選出した。ドイツ初の女性宰相であると同時に、当時まだ51歳という歴代最年少の首相として歴史に名を刻むことになった。その後、メルケルは2009年9月、13年9月と連続して総選挙に勝った」。

メルケルの政治的育ての親と言えるヘルムート・コールに造反して、その政治的生命を絶った事例に、メルケルの凄みが凝縮しています。「往々にして、恩は仇で返される」のです。

メルケルを一言で表現すると、「危機から生まれ、危機によって形作られ、危機によって強大化する指導者」だというのです。「ギリシャ債務危機を通じて、メルケルが欧州連合(EU)の盟主の座に押し上げられたことを考えると、メルケルがいかに危機をチャンスにしているかが分かる」。

本書の後半では、メルケルの外交が考察されています。特に、ドイツの中国重視・日本無視政策には注意が必要だと、著者が警告を発しています。

EUの盟主としてのメルケルにも言及されています。「2011年12月のEU首脳会議では、メルケルはユーロ圏をドイツ的な財政規律の管理下に置く『財政同盟』に転換する歴史的事業に成功した。参加各国へ財政規律の法制化を求め、EU司法裁判所の決定を経て違反国に制裁も科す『財政協定』で合意が成立したことだ。財政協定はユーロ圏で批准手続きが進み、2013年1月に発効した」。

メルケルは脱原発でも知られていますが、その経緯はこう記されています。「放射能についても豊富な知識を持っている物理学者のメルケルは元来、原発の安全性を確信し、原子力は必要だという考えだった。しかし、2011年3月の東日本大震災・東京電力福島第一原発事故が起きた結果、メルケルは従来の立場をあっさり捨て、2022年末までの原発全廃に急速に舵を切った。その決断は実に早かった。状況に応じて従来の方針を打ち捨てるメルケルは『状況主義者』とも形容される。周囲の状況、新たな展開を利用し、方針・政策を劇的に変えるのだ」。

著者によるメルケルの仕事術の分析は読み応えがあります。●徹底的な情報収集と猛勉強、●ベストの決断時期が到来するまで待つ忍耐心、●結末をイメージしてからプロセスを考える計画性、●大きな問題は構成する小さな問題に分解して考える問題解決法――などが挙げられています。

メルケルに関する謎が解けるだけでなく、メルケルの戦略・戦術、そして仕事術も学べる重宝な一冊です。