榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

子供だけでなく、大人にも薦めたい詩歌選集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1574)】

【amazon 『こども「折々のうた」100』 カスタマーレビュー 2019年8月9日】 情熱的読書人間のないしょ話(1574)

理由は分からないが、例年に比し今夏はミンミンゼミの鳴き声が圧倒的で、アブラゼミは影が薄い印象です。こうなると、天の邪鬼の私はアブラゼミを応援したくなります。あちこちで、フヨウが桃色の花を咲かせています。ハナトラノオ(カクトラノオ)が薄紫色の花を付けています。ダリアの花、ホオズキの実を包む萼、アカジソの葉をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は10,709でした。

閑話休題、『こども「折々のうた」100――10歳から読みたい日本詩歌の決定版!』(大岡信著、長谷川櫂監修、小学館)は、子供たちに短歌、俳句の魅力を知ってほしいという願いを込め、大岡信の『折々のうた』から短歌50、俳句50が選ばれています。

●憶良らは今は罷(まか)らむ子泣くらむ それその母も吾(わ)を待つらむそ――山上憶良。「私、憶良はもう引き上げます。『なぜこんなに早く? パーティはまだはじまったばかりじゃないか』。だって子どもたちが『お父さん、お父さん』と泣いて待っているようなので。『そういいながら、じつは奥さんんい会いたいんじゃないの?』。見抜かれましたか、子どもたちの母も私を待ちわびてますので」。

●夏の野の繁みに咲ける姫百合の 知らえぬ恋は苦しきものそ――大伴坂上郎女。「夏の野原の草のしげみに咲いているヒメユリの花よ。おまえのようにこっそりとあの人を恋するのは、なんて苦しいのかしら」。

●秋来(き)ぬと目にはさやかに見えねども 風のおとにぞおどろかれぬる――藤原敏行。「今日が秋の初めの日といわれても、夏の暑さがまだ続いていて、秋が来たことが目ではわからない。でも耳を澄ましてごらん、どこからか吹いてくる秋風の音が聞こえるよ、あの音でひっそり秋が来ているのがわかる」。

●見わたせば 花も紅葉(もみじ)もなかりけり 浦の苫屋(とまや)の秋の夕暮――藤原定家。「漁師の家しかない海辺の秋の夕暮れ。いくら見渡しても何もありません。この夕闇を透かして、これまでに眺めてきた春の桜の花や秋の紅葉のまぼろしが目に浮かぶだけ」。

●たのしみは衾(ふすま)かづきて物がたり いひをるうちに寐(ね)入りたるとき――橘曙覧。「平凡な人生の楽しみの一つ。家族や友だちの誰かと布団に横になって、いろんな話をしているうちにどちらもうとうとと眠りに落ちてしまったとき」。

●白鳥(しらとり)は哀しからずや 空の青海(あおうみ)のあをにも 染まずただよふ――若山牧水。「風にのる白い鳥よ、おまえはなんてかなしいのだろう。空の青、海の青にも染まらず、空にも海にも帰るところがなく、そのあいだをただよっているのだから」。

●幾山河(いくやまかわ)超えさり行(ゆ)かば 寂しさのはてなむ国ぞ 今日も旅ゆく――若山牧水。「いくつの山、いくつの川を超えてゆけば、さびしさのない国にたどりつけるのだろうか。そんなはてしないことを思いながら、きょうも私は旅をつづけている」。

●ほとんどに面(おも)変りしつつわが部隊 屍馬(しば)ありて腐れし磧(かわはら)も超ゆ――宮柊二。「この前まで生き生きとしていたこの部隊の兵士たちの顔も、泥に汚れ、ヒゲが伸び、そして何より悲惨な戦場を目の前にして今ではすっかり変わり果てた。きょう渡った河原には馬の死体が転がったまま腐っていた。どこまでつづくのか、この行軍は。いつまでつづくのだろうか、この戦争は」。

●マッチ擦るつかのま海に霧ふかし 見捨つるほどの祖国はありや――寺山修司。「マッチをする。パッと炎が燃えあがると、すぐ消えてしまった。一瞬、炎が照らした海は深々と霧におおわれていた。この前の戦争までは祖国日本のために人々は身を捨てた。けれど、この私にこの身を捧げる祖国なんてあるのだろうか。ああ、新しい時代よ、何のために生きよというのか」。

●梅一輪一りんほどのあたゝかさ――服部嵐雪。「ウメの花がひとつ開いた。今は冬の終わりのいちばん寒いとき。そのウメの花ひとつくらいの小さなあたたかさが生まれたよ」。

●淋しさの底ぬけて降るみぞれかな――内藤丈草。「空は淋しさをこらえている。だから空には淋しさが水のようにたまってしまった。見あげると、氷交じりの冷たい雨が次々に降ってくる。淋しさをこらえていた空の底が抜けてしまったように」。

●やはらかに人分けゆくや勝角力(かちずもう)――高井几董。「勝負に勝った相撲とりが、おおぜいの人々の間を堂々と進んでゆく。人々をやわらかに左右に分けながら、さすが勝ち力士だなあ」。

●涼風(すずかぜ)の曲がりくねつて来たりけり――小林一茶。「涼しい風がくねくねと曲がりくねってやってきてくれた。こんな路地の奥のわが家まで」。

●なきがらや秋風かよふ鼻の穴――飯田蛇笏。「生きていたときは息が通っていた鼻の穴を、今は秋風が通っている。その人は死んでしまって、その体は抜け殻になってしまった」。

●戦争が廊下の奥に立つてゐた――渡辺白泉。「長い廊下を歩いてゆくと、奥野暗闇に戦争が立っていた。まるでぶきみな怪物のように」。

●はるかまで旅してゐたり昼寝覚――森澄雄。「昼寝から目がさめた。眼りの中でどこか遠くまで旅をしていたような気がするよ」。

子供だけでなく、大人にも薦めたい詩歌選集です。