榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

明治初年の庶民が、それぞれの持ち場で働く様子を活写した浮世絵集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1791)】

【amazon 『はたらく浮世絵』 カスタマーレビュー 2020年3月10日】 情熱的読書人間のないしょ話(1791)

我が家の庭師(女房)から、庭でムスカリが1本だけ咲いているわよ、との報告を受けました。近くの畑で、フキの雄株を見かけました。若い雄株と雌株はフキノトウと呼ばれ、食用に供されます。

閑話休題、『はたらく浮世絵――大日本物産図会』(橋爪節也・曽田めぐみ監修・執筆、青幻舎)には、明治10(1877)年の第1回内国勧業博覧会に出品された、三代歌川広重の筆になる『大日本物産図会』の浮世絵119図が収録されています。

『大日本物産図会』は、日本各地の名産品がテーマとなっているが、「家族総出で和気藹々と働いているような図があったり、屈強な男性ばかりの力自慢の職場や、女性が中心に回っている職場もあ」ります。当時の空気感が溢れている、見応えのある浮世絵集です。

「物産品をばんばん見世(みせ)る」の章では、「東京錦繪製造之図」(東海道・武蔵<東京>)が目を惹きます。「男性たちが黙々と錦絵用の紙に刷毛でドウサを引き、乾かしたのちに色を摺るといった分業の様子が描かれる。一方、骨に糊を付け、次々と団扇絵を貼って仕上げを施しているのは皆女性たちで、楽しく会話をしながら仕事に従事しているようだ。店頭に掲げられた錦絵を喜び見入る者や版本を立ち読みする洋帽の男性等、往来は活気に溢れている。絵草紙屋と出版業を兼ねていた『大日本物産図会』の板元 大倉孫兵衛の店かと想像される」。

「和気あいあいとはたらく」の章では、「下総国西瓜畑之図」(東海道・下総<千葉>)の動きのある絵に目が吸い付けられました。「西瓜がボールのように宙に舞う。思っていたよりも高くあがったのだろうか、前景の男性たちの驚く様が面白い。・・・収穫の場面で、地面の様子から砂地栽培であることがうかがえる」。

「女性がいきいきはたらく」の章の「宇治茶製之図 二」(機内・山城<京都>)では、たくさんの女性が作業に取り組んでいます。「宇治の製茶を取り上げる。・・・(手前の)女性が団扇で煽ぎ冷ます。・・・左奥の女性たちが手作業で品質を確認する。・・・左端の茶箱には花鳥や風景を描く木版画が貼られている。これがいわゆる『茶箱絵』で、茶の主要輸出先であった西洋において浮世絵に注目が集まるきっかけとなった」。

「力自慢がどしどし集まる」の章では、「筑前国鮪漁之図」(西海道・筑前<福岡>)の力強さが印象的です。「画面左のように網を曳き、飛び上がったところを捕まえようとするが、鮪は身をよじって必死で逃げる。負けじと、漁師たちも打鉤を手に仕留めにかかる。まさに漁師と鮪の一騎打ちである」。

「職人技がきらきら輝く」の章の「磐城国野馬捕之図」(東山道・磐城<福島>)は、躍動感に溢れています。「桜咲く春、腕自慢の男達が素手で野馬を捕えんと奮闘している。・・・男達の威勢の良い声と馬のいななきが牧場に響き渡る、力強い活気に満ち溢れた一枚」。

こういう浮世絵もあったのかと、思わず笑みがこぼれます。