榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

四十半ばの女、有働由美子の独り言は、自然体の極致・・・【情熱的読書人間のないしょ話(41)】

【amazon 『ウドウロク』 カスタマーレビュー 2015年1月26日】 情熱的読書人間のないしょ話(41)

1日10,000歩の目標を果たすため、女房を散策に誘いました。買ったばかりのニットの帽子を被ろうとしたところ、年寄り臭いというクレームがつきました。そこで、散策中にすれ違う男性がニットの帽子を着用しているか否かの実態調査を提案したのです。その結果は、野球帽やハンティング帽の人が多く、ニット帽が19人、無帽が69人と、私の惨敗に終わりました。因みに、この日の歩数は10,921。

閑話休題、「NHKニュース10」のキャスターを務めていた当時から、私は有働由美子のファンです。今回、彼女のエッセイ『ウドウロク』(有働由美子著、新潮社)を読んで、ますます好きになりました。

有働の魅力は、何と言っても、その言動が自然体であることですが、40代半ばと年齢を重ねて、自然体に一段と磨きがかかってきたようです。

「『一緒に住みたい』と、言われたことがないわけではない。45年も生きているのですもの。でも、待ちに待ったその言葉を言われた瞬間、オロオロとしてしまった自分がいた。・・・ようやく、これ(独身生活)も悪くない、覚悟を決めて一人で生きるんだ、と思えるようになっていたつもりであったが、隙があった。やっぱりどこか寂しさを埋められなくて、ついつい恋などしてしまう。女としての陰りへの不安もある。もう1、2年はいいが、そのあとほんとに独りになっちゃうんじゃないか。誰も寄りついてくれなくなるんじゃないか。まだ女の香りがかろうじて残っているかもしれない今のうちに、獲捕しておくべきじゃないか。しかし、いざ、現実として、この空間を二人でシェアしようと言われると、怖くなる。・・・急に友達を連れてきちゃいけなくて、帰る時間を知らせなくちゃいけなくて、その日のうちに食卓を片付けなくちゃいけなくて、酔ってすっ裸で寝ちゃいけなくて。・・・本当に、スイマセン・・・」。

「私は、何に対しても生来、課題克服型で、課題が大きければ大きいほど燃えるタイプで、おかげで課題の多い男性とばかり対峙してきた。だめんず話は、誰にも負けない。失恋するまで恋は極秘にする質の私は、恋が終わった後まとめて口を開くのだが、聞いている友人たちは、悲惨すぎて面白すぎる、と泣くほど笑う。ひとしきり嘲笑というか爆笑というか、まあ笑い者にしたあとで・・・。それでもワタシの、好みの男性は変わらない」。この結びは最高ですね。

「独居中年の高熱って、悲惨だ。・・・年老いて素直に人を頼れなくなった弱さを知り、だったら日ごろから健康管理しなくちゃという反省と、またひとつ一人で乗り越えてしまった、という自負がプラスされました」。

「男を見る目がないと、家族からも友人からも評判の私だが、他人の彼氏はちゃんと見える。あれ、なんでなんだろう。・・・恥ずかしついでに暴露しますと、かつて金払いの悪い男を、ムダ遣いしない経済観念がしっかりしているタイプで将来設計がまかせられるかも、なんて思っていましたが、後に、他の女性には金払いがよかったという事実を知らされました。あのまま将来を任せていたら、完全に吸い取られた上で捨てられてたな、というパターンです。そんな自分の話は置いておいて、友達の話に戻すと・・・。いくつになっても、恋って、人には見えても、自分には見えない。そういう摩訶不思議なもの、なんでしょうねえ」。有働はエッセイストとしても、食べていけると思いますよ。

「美人でもなく、モデル体型なわけでもなく、すごく頭が良いわけでもなく、特に優れた才能や特技も持ち合わせていない、私のようなフツーの輩は、『嫌われてもいい』わけがない。特に際立ってモテたり好かれたりしようなどという大それた欲望はとうの昔に捨てているけれども、『せめて嫌われない』でいたい。というか、そうでないと生きていけないよね、という意識が遺伝子レベルで組み込まれていて、『嫌われない』ことに、生まれてこのかた心を砕いてきた。・・・四十を過ぎたいつ頃からだろう、それが変わってきた。人に対して、はっきりとモノを言うようになった」。

この本の読者を女性に限定してはもったいない。男性も十分楽しめるエッセイ集です。