親の貧困が子に連鎖するという現実・・・【情熱的読書人間のないしょ話(126)】
国内で一度絶滅したコウノトリの復活に千葉県野田市が取り組んでいます。今年3月に生まれた幼鳥3羽が今日放鳥されるというので、1時間半カメラを構えて待ちましたが、遂に飛び立ちませんでした。飼育ケイジの天井のネットが半分開けられたのに、3羽とも全く飛び立つ気配なしと、女房から報告がありました。しかし、そう遠くない日に、田んぼの上空を舞うコウノトリを見ることができるでしょう。放鳥前日の3羽は、のんびり過ごしていました。【追記:夕方になって、漸く2羽が飛び立ったそうです】
閑話休題、『ルポ 子どもの貧困連鎖――教育現場のSOSを追って』(保坂渉・池谷孝司著、光文社)には、考えさせられました。
「高校編――お金なくても学びたい」には、駅のトイレで寝泊まりする女子定時制高校生が登場します。「『あのころはホームレスみたいでした。夜、仕事が終わると、もう電車がないんです。だから、駅前の多目的トイレで寝泊まりしてました』。陽子はまっすぐにこちらを見詰め、何でもないことのように口にした」。「『トイレは寒いけど、横になれる場所があるとほっとする。眠れるだけで<幸せ>って感じ』。陽子は『幸せ』という言葉を強調し、当時を思い出しながら、眠れることが本当に幸せそうだった」。「当時、陽子は朝が9時までコンビニのレジ打ち。昼は10時から午後3時までファストフード店。夜は5時半すぎから9時まで授業に出た後、久美と飲食店で深夜労働という過酷なトリプルワークをこなしていた」。
「中学校編――貧困の連鎖断ち切れ」では、車で寝泊まりする母子が紹介されています。「母子は車で寝るしかなかった。狭い車内は床にペットボトルやサンダルが散乱、祖母の家から持ち出した荷物で埋まっていた。3人は何とかスペースを作って寝た」。
「小学校編――保健室からのSOS」には、朝食を求めて保健室に行列をつくる児童たちのケースが記されています。「始業前、まだ鍵の掛かった小学校の保健室。5人ほどの『常連』の児童が、ランドセルを下ろして廊下に座り込んでいた。『先生、おなかがすいた』。『早く開けて』。待ちかねた養護教諭の河野悦子が来ると、子どもたちが声を掛けた。朝食を食べていない子どもたちのお目当ては、河野が『とっておきの朝食』と呼ぶ給食の残りのパンと牛乳。子どもたちみんなが、おいしそうにパンをほお張り、牛乳をゆっくり飲み干した」。「子どもの貧困が『健康格差』まで生んでいることが、現場経験の長い河野にはひどく不安だ」。
「保育編――幼い命育む砦に」では、親の収入格差が入園を左右することが報告されています。「『1カ月前から、家族で車の中で寝泊まりしているんです』。車上生活と聞いて、ベテランの園長の鈴木も、思わぬ事態に一瞬言葉を失った。・・・直子は車上生活に追い込まれた理由を話した。その後は、トイレと水道が使える公園に車を止めて、寝泊まりしていた。夏の夜、車の窓を閉めると蒸し暑くて眠れず、開ければ蚊に悩まされた」。「親の経済格差だけでなく、保育の内容にも格差が生まれ、子どもの中に二重の格差ができてしまいます。保育所も階層化するでしょう。この保育所は裕福な階層の子どもたち、こっちは厳しい生活状況の子どもたち、と保育所が分かれていきます」。
「子どもの貧困は見えにくいといわれる。子どもたちはとても繊細で、親を気遣い、貧困を隠す」、「教育現場での取材を通して、私たちが最も痛切に感じたのは『貧困の連鎖』の広がりだ。親に経済力がなければ、子どもは人生のスタートラインから差がつき、将来も生活に苦しむという貧困の連鎖が起こりがちだ。これを断ち切らなければ、日本の未来はない。その連載から脱け出し、子どもたちが自らの力で将来を切り開くために今、最も必要とされるのは教育の保障だ」という言葉が胸に突き刺さります。