特定秘密保護法と治安維持法との危険な関係・・・【情熱的読書人間のないしょ話(184)】
88歳の母と銀座の「志」で食事を共にしました。18歳年下の私に話すべきテーマを何行もメモしてくるなど、昔からの習慣を絶やさないしっかり者です。温燗の日本酒を嗜みながら、大いに語り、大いに笑う元気者の母に、私たち夫婦は圧倒されっ放しでした。何事にも好奇心旺盛で、頭の回転が速く、いつも前向きで明るく行動的な彼女は、私にとって老年期の理想像です。散策中に、白い小さな妖精のようなヒバの実を見つけました。赤い小さな実を実らせているリンゴも見かけました。因みに、本日の歩数は12,586でした。
閑話休題、『獄中メモは問う――作文教育が罪にされた時代』(佐竹直子著、北海道新聞社)は、戦時下、熱心に作文指導をしていた小学校教員たちが次々と治安維持法違反容疑で逮捕された事件を追ったルポルタージュです。
「戦時中、北海道で50人を超える教員が治安維持法違反容疑で特別高等警察(特高)に連行された『北海道綴方教育連盟事件』。その事件で逮捕された元教員の一人、故松田文次郎さんが、釧路の刑務所に勾留中に書いたとみられる『獄中メモ』とこの日、偶然出合った」ことがきっかけになって、本書は執筆されました。
「事件は、既に日中戦争が勃発し、戦時体制が世の中を覆っていた1940年(昭和15年)から翌1941年にかけて起きた。子供たちに自分の暮らしや日々の思いをありのままに作文に書かせる『綴方(作文)教育』に励んでいた青年教師たちが、『貧困などの課題を与えて児童に資本主義社会の矛盾を自覚させ、階級意識を醸成した』などとして次々と逮捕され、11人に有罪判決が言い渡され確定した。旭川出身の作家、故三浦綾子さんの長編小説『銃口』の題材となったことでも知られる」。
事件発生から73年を経て見つかった獄中メモには、「元教員たちが特高らから暴力や脅しで捜査当局に都合のいい供述を強いられた上、長期の拘禁生活で心身を痛めつけられ、さらに本来は公正であるべき裁判所の予審判事にすらも、当局が描いた事件のシナリオに合うように調書を改ざんされていった過程が、生々しく記されていた」のです。
「叩く。ける。座らせる、おどかす」。
「治安維持法違反の罪で有罪判決を受けた11人の元教員らの戦前の足跡をたどっていくと、彼らはいずれも、教育実践に熱心で同僚や子供たちに人望があり、学校でも中心的な存在だった」。
「1941年(昭和16年)5月、政府は大正末期に制定した治安維持法を全面改正し、施行した。処罰対象に、国体変革を目的とした『組織を準備することを目的』とする結社も加え、範囲をあいまいにして拡大。国民生活への監視を一層強めていった」。
子供たちへの作文指導が罪になるとはどういうことでしょうか。国家は戦争遂行の邪魔になるものは、たとえ小石のようなものでも容赦せず、どんどん排除していったのです。政府に代表される国家権力が自分に都合のいいように法律を拡大解釈したこの事例を知れば知るほど、現政権が広汎な反対運動を無視して特定秘密保護法を成立させた事例との共通点に危機感を覚えてしまうのは私だけでしょうか。