榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

君は黄金海岸の奴隷貯蔵庫の陰惨さを知っているか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(218)】

【amazon 『曠野から』 カスタマーレビュー 2015年11月7日】 情熱的読書人間のないしょ話(218)

散策中に、池を覗き込んだ女房が、わあ、目がかわいい、ラッコやアザラシみたいと声を上げたので、何事かと思ったら、愛嬌たっぷりの黒目のコイでした。ハクセキレイをカメラに収めることができました。モミジバフウはすっかり紅葉しています。ツノナスの黄色い実はキツネの顔に似ているので、フォックスフェイスとも呼ばれています。因みに、本日の歩数は10,262でした。

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閑話休題、『曠野から――アフリカで考える』(川田順造著、中公文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、文化人類学者・川田順造が西アフリカのサヴァンナ地帯に6年間滞在した時の思いを綴ったエッセイ集です。

どのエッセイも興味深いのですが、「黄金海岸」が一番強く印象に残りました。

「(私たちがくわだてた旅行は)ギニア湾沿岸の、15世紀以後渡来したヨーロッパ人が黄金海岸と名づけた地方に出、かれらが黄金や奴隷の交易拠点として築いた城砦のあとを訪ねようというものだった」。

「城砦のこの部分の階下の両わきにある細い通路をぬけると、その裏手にあるいくつもの石の部屋が、かつての奴隷貯蔵庫だ。左手の通路から行ける部分が女奴隷用、右手が男奴隷用の倉庫だったという。奴隷の足につけられた鉄の球ものこっている。奴隷狩りの下請けをする現地人首長のところから、安物の鉄砲や、酒や、たばこや、ガラス玉や、布などとひきかえに、城砦におくりこまれた男女の奴隷は、産地や商標の焼印を腕や腹に押されたあと、この穴倉に放りこまれて、船積みを待ったのである。入江に面した半地下の穴倉の入口は、通路の石の床がすべり台のように掘りくぼめられていて、そこから手足をしばられたままつきおとされれば、ふつうならもうあがってはこられないのだが、入口には用心ぶかく、いまはすっかり銹びた鉄柵がはめこんである。ここから蹴おとされた奴隷にのこされているただ一つの出口、それは入江にむかって、船積みのときだけひらく、重い鉄柵の扉だ。この唯一の出口の向こうに待っている運命は、船艙につめこまれ半死半生になって大西洋をこえ、カリブ海の島や、アメリカやブラジルの奴隷市で、鞭打たれながら売りさばかれることだったのだ」。

「私たちは今度の旅行で、海岸の城砦を7つ訪ねたが、石でかためた、多くの半地下の、湿った、暗く閉ざされた奴隷貯蔵庫の陰惨さに、そこに一歩ふみこんだだけで息のつまる思いがした。・・・その一つは、小さな通気孔が3つ、石壁の高いところについただけの、たてよこ5メートルと7メートルくらいの狭い湿った場所で、ここにいつも3百人くらいの女奴隷がつめこまれて船の到着を待っていたという。・・・奴隷の、残忍きわまるとりあつかいは、商標の焼印を押され貯蔵庫に放りこまれた黒人から、人間らしさの最後のひとかけらまで奪い、反抗の気力も体力もしぼりとり、かれらがもはや人間ではなく、白人の商品にすぎないことを、骨の髄までしみこませるためのものだったのだろうか。・・・この地下倉になまなましい叫喚とともによみがえるのは、熱気と湿気のよどむ闇のなかで、汗まみれ糞まみれ小便まみれになり、ある者は熱病で目も口も半びらきに、だが倒れる空間もなく、昼も夜もひしめきあう数百人の黒人女たちだ。もちろん『極上品』は、商品として倉庫に投げこまれるまえに、砦の男たちのほしいままな淫欲の犠牲にされたにちがいない」。

「こうして1888年にブラジルを最後にして、奴隷制が欧米諸国で廃止されるまで、アフリカからアメリカ大陸に向けて連れ去られた奴隷の総数は、最近奴隷商人の日誌なども発掘、刊行されたりして少しずつ資料はふえているものの、正確には永久に不明のままであろう。奴隷狩りで殺された者、大西洋をわたる輸送の途中で死に、あるいははかない反抗を試みて殺され海に投げこまれた者も含めれば、おそらくは3、4千万の人命が、アフリカ大陸の西部からだけでも奪われたらしい。しかも中央アフリカの各地からも、これにおとらぬ大量の奴隷が運び出されているのである。千万という、1ヵ所に集めて見わたすこともできないような人数を単位にしたこの巨大な不明確さが、すでにアフリカ奴隷貿易のはらむ暗黒をみせつける」。

著者が敬愛する、フィールドを重視したレヴィ=ストロース仕込みの研究姿勢と文章が特徴的な一冊です。