榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

古代ローマの貴族が語る奴隷の実態・・・【情熱的読書人間のないしょ話(125)】

【amazon 『奴隷のしつけ方』 カスタマーレビュー 2015年7月22日】 情熱的読書人間のないしょ話(125)

森の奥の無人の小さな堂の軒下にアリジゴクの巣がたくさん作られていました。巣は200以上もあり、巣の周辺にはアリジゴクが羽化した白い抜け殻が散乱しています。次から次へとウスバカゲロウが巣立っていった情景は、さぞ壮観だったことでしょう。因みに、本日の歩数は10,494でした。

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閑話休題、『奴隷のしつけ方』(マルクス・シドニウス・ファルクス著、ジェリー・トナー解説、橘明美訳、太田出版)は、3つの点でユニークな本です。

第1は、マルクス・シドニウス・ファルクスという古代ローマの貴族が語るという形をとっていることです。この貴族は架空の人物で、解説者として登場するジェリー・トナーが実際の著者です。

第2は、私たちが知ることの少ない古代ローマの奴隷たちの実態が、多くの文献に基づき描き出されていることです。「奴隷は家族をもたず、結婚の権利と義務から切り離され、存在理由そのものを主人から押しつけられ、名前も主人から与えられる。その意味では奴隷状態とは『社会的死』であり、だからこそ主人への絶対服従が当然とされる。だがそれを理解しない奴隷も多いので、時には力ずくで服従させるしかない。社会的死を拒もうとする意志をくじく必要があるのだ。・・・奴隷は一様に法律上の権利をもたない。・・・奴隷の仕事や置かれた立場は一様ではない。また奴隷の仕事は実に多岐にわたる。家内奴隷だけとっても、玄関で見張りをする老人、食堂で水を注いで回る若者、寝室で主人の世話をする美少女など、ファミリアという集団のなかで多くの奴隷がさまざまな仕事をし、主人のあらゆる要求に応えている」。「厳密にいえば、奴隷とは戦争捕虜か、さもなければ女奴隷が産んだ子であるはずだ。しかし実際にはほかにもさまざまな事情で奴隷に身を落とす例がある」。「奴隷を買ったら、次はどんな仕事を割り当てるかを考える。奴隷の仕事はいくらでもあるが、大きくは農場の仕事と都市の邸宅での仕事の二種類に分けられる。・・・女奴隷はもっぱら家内労働と交配のためと考えることができる。だが恥ずべき連中もいて、女奴隷を買って売春宿で働かせることもある」。「奴隷たちは奴隷同士の性交渉も望むし、家族をもちたいと考える奴隷も多い、それを許すかどうかは主人であるあなた次第である。奴隷の婚姻は法律では認められていないが、主人の裁量で事実婚を認めることはできる」。「奴隷の交配は(奴隷を増やす点で)有益だが、それなりの費用と手間がかかることも忘れてはいけない」。

また、トナーが解説で、このように述べています。「主人が自分の奴隷との性交に耽ることがあったのは事実で、相手が女奴隷であれば子供が生まれることもありました。そのような場合、主人が父親であっても、子供は法律上奴隷となります」。「奴隷が性的虐待を受けていたことについては数多くの証拠が残っています。主人が強い立場にあり、しかも奴隷には法的権利がなかったので、驚くようなことではありません」。

第3は、現代も奴隷状態に置かれている人々がたくさんいることを忘れてはいけないと指摘していることです。「今や世界のどこの国でも奴隷制は違法ですが、それにもかかわらず、奴隷状態に置かれている人々がたくさんいます。・・・暴力で脅されて労働を強要され、給料ももらえず、逃げる希望さえもない人々が2700万人いるそうです。現代社会には、古代ローマのどの時代よりも多くの奴隷がいるのです」。