女性は出産の道具と貶められた近未来社会では・・・【情熱的読書人間のないしょ話(197)】
茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園は、紅葉したホウキギ(ホウキグサ、コキア)が一面に広がり、まるで大地が燃えているかのようでした。コスモスとのハーモニーも見応えがあります。
閑話休題、『侍女の物語』(マーガレット・アトウッド著、斎藤英治訳、ハヤカワepi文庫)は、暗く恐ろしい近未来小説です。
アメリカ合衆国で、キリスト教原理主義者の一派がクーデターによって政権を奪取します。出生率の低下に危機感を抱いた彼らは、全ての女性から仕事と財産を没収し、妊娠可能な女性たちを「侍女」としてエリート層の男性の家に派遣します。「侍女」たちはあくまでも出産の道具に過ぎず、監視と処刑の恐怖に怯えながら、儀式の夜に主人の精液を注入され、ひたすら妊娠、出産することを強制されるのです。
このような女性にとって何とも理不尽な近未来社会が、司令官の家に派遣されたオブフレッドという名の「侍女」によって語られていきます。本名を使うことを禁じられた「侍女」たちは、「オブフレッド」「オブグレン」といった、所有を表す「オブ」と所有男性のファーストネイムを合わせた名前で呼ばれるのです。「わたしは33歳だ。茶色の髪をしている。身長は、裸足で170センチ。昔の自分の容姿はうまく思いだせない。わたしは妊娠可能な子宮を持っている」。『愛が生まれるきっかけはまるでないのだ。わたしたちは二本の脚を持った子宮にすぎない」。
「『五体満足じゃなかったのよ』と、オブグレンがわたしの耳のそばで言う。『結局、シュレッダーにかけられたのよ』。彼女はジャニーンの赤ん坊のことを言っている」。
ショッキングな状況設定だからこそ、女性と男性の関係、愛人(侍女)と妻の関係、監視される側の女性と監視する側の女性の関係、妊娠・出産が持つ意味、人工妊娠中絶の是非、女性と化粧・衣装の関係などの問題が鮮明に浮かび上がってくるのでしょう。