『源氏物語』54帖が1時間で読めるって、本当?・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1215)】
雰囲気のある小物が飾られている庭先を見かけると、どういう人が住んでいるのだろうと気になってしまいます。
閑話休題、『源氏物語』の現代語訳はいろいろ出版されているが、私の好みにぴったりフィットするのは『謹訳 源氏物語』(林望著、祥伝社、全10巻)です。と言っても、『謹訳 源氏物語』全巻を読み通すには、かなりの時間がかかることは確かです。
駆け足でもいいから『源氏物語』54帖全体を知りたいという向きには、『源氏物語』(ささきようこ編、駒原みのり挿し絵、表現社、1・2巻)をお薦めします。特殊な速読法を用いなくても、1時間で読み終わることができるでしょう。各帖にカラーの挿し絵が添えられているので、状況をよりよく理解することができます。
例えば、桐壺(きりつぼ)の帖の始まりは、「どなたの世であったでしょうか。女御(にょうご)や更衣(こうい)といった、帝(みかど、天皇)のたくあんのお妃(きさき)のなかで、それほど身分は高くないのに、帝にたいそう愛された、桐壺の更衣という方がいました」といった具合です。
夕顔(ゆうがお)の帖は、「ある八月十五夜の明け方近く、物の怪(け)のいそうな荒れ果てた邸(やしき)の中に、源氏に導かれて入った女は、その邸で御息所(みやすどころ)の生き霊(りょう)にとりつかれ息をひきとりました。源氏は後々までこの事を後悔しました」と結ばれています。
若紫(わかむらさき)の帖には、「夏のはじめ、源氏は里帰り中の藤壺(ふじつぼ)の宮を訪ね、無理やり一夜を共にしました。その後、宮の懐妊の噂さが耳に届き、源氏は、近いうちに帝の父になる夢を見ました」という重要な一節が含まれています。藤壺というのは、源氏の父帝の妃だからです。
須磨(すま)・明石(あかし)の帖では、都落ちした源氏が描かれています。「帝が変わり、右大臣家一統の支配する世となりました。・・・源氏は、官位も奪われ、やがて流罪(るざい)の決定が下りそうです。その前に自分から身を引こうと考えた源氏は、都を遠く去り、須磨の浦の質素な田舎家に移り住みました。須磨の浦風は吹き荒れ、訪ねる人もまれな、つらくわびしい月日が過ぎていきます。・・・明石の浦へ移った源氏は、そこで都人(みやこびと)におとらぬ気品をたたえた明石上(あかしのうえ)と出会い、結ばれました」。
浮舟(うきふね)の帖は、源氏亡き後、源氏の孫・匂宮(におうみや)と、源氏の妻が不倫して産んだ薫(かおる)が一人の女性を奪い合う物語です。「浮舟は誠実な薫と情熱的な匂宮の板ばさみや、母や中の君へのすまなさで、宇治川に身を投げたいと思いつめました」。