榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

IoTはビジネスの世界をどう変えるのか・・・【あなたの人生が最高に輝く時(66)】

【amazon 『IoTビジネスモデル革命』 カスタマーレビュー 2016年7月5日】 あなたの人生が最高に輝く時(66)

IoTが起こす変化

IoTビジネスモデル革命』(小林啓倫著、朝日新聞出版)を読むと、IoTを知らずしては、今後のビジネス世界では生き延びれないことがはっきりする。

IoTが起こす変化とは何か。IoT(Internet of Things)とは、モノがネットワークに繋がり、離れた場所で情報のやり取り(モノの状態を知る・制御するなど)ができるようになることである。このモノをネットワークに繋ぐというIoT技術は分かり易いとしても、そこからどのような価値を生み出すのかというIoTアプリケーションの点では、まだまだ国内外の企業とも苦戦しているのが現実だ。

IoTの3段階

著者は、IoTで実現される価値を、「人がいなくてもいい世界」という言葉で表現している。そして、この世界を3つの段階に分けて解説している。第1段階は、IoT以前の世界で、人とモノ、そしてモノを制御するインターフェースが同じ空間に存在しなければならない状態である。第2段階は、モノがネットワークに繋がるという基本的なIoT技術が実現された世界である。ネットワークを通じて、モノの状態を知ったり、それを制御したりできるため、人とモノが同じ空間にある必要はない。従って、会社から消し忘れた自宅のエアコンを操作するといったことが可能になる。つまり「同じ空間に人がいなくてもいい」状態になるわけだ。第3段階は、IoT技術がフル活用された世界である。ここではモノが別のモノとつながり、自分が持っていない情報を得たり、逆に相手に情報を渡したりする。それにより、インターフェースにとって必要な情報が得られれば、モノが自らの判断で制御を行う。例えば、外は雨であるという情報が得られたら、自分の明かりの色を青くするといったようなことである。もちろん、どのような条件のときにどのような制御を行うのか、事前に人間が設定しておく必要があるが、それさえできていれば、完全な意味で「人がいなくてもいい」状況になる。

この第3段階の世界では、さらに、より高度な制御が実現される可能性がある。AI(人工知能)のように複雑な判断ができるシステムや、ビッグデータ解析のように、人間の理解力を遥かに超えた量のデータからパターンを見出せるシステムと繋がれば、人間が担当するよりもきめ細かいコントロールを行えるようになるのだ。このように「人がいなくてもいい」世界は、私たちの生活を一変させ、ひいてはビジネスや社会のあり方まで変えていくことになる。

IoTと医療

本書ではIoTがもたらす新たなビジネスモデルが紹介されているが、医療分野はこのように展望されている。「京都大学医学部附属病院の黒田知宏教授は、医療の役割が『診察』『診断』『研究』『治療』の4つに分解できると述べている。つまり患者の状態を調べ(診察)、得られたデータに基づいて患者がどのような病気か判断し、必要があればその治療法を検討・研究して(診断および研究)、これまでの判断に基づいて実際に治療行為をする(治療)わけである。しかし医師という資源は有限であり、これからはどの役割を医師が担当し、それ以外の役割を医師以外の人々や機械に振り分けるかという、『再配分』について考えなければならないと黒田教授は主張している。仮にこの中の『診察』という役割を切り離し、患者の各家庭で行われるようにしたらどうだろうか。従来であれば、そうした診断機器は高価で個人が持てるようなものではなく、仮に記録が取れたとしても、それを医療関係者と正確に共有するには多くの手間と時間がかかった。したがって現実的な話ではなかったが、IoTが生み出す情報空間であれば、そのような心配はいらない。・・・IoTは、データが瞬時に共有されるという特性を基に、様々な作業がどこで行われるのが一番良いのかを考え、新しいモデルへと組み立て直すことが可能になるのだ」。

IoTの技術を使えば、医師の役割を分解し、それを再配分することで、医学的資源が最も効率的に活用される状態を無理なく推進することができるだろう。場合によっては、医療という領域を超え、社会全体の再構成を実現できるかもしれない。「奈良県立医科大学の理事長・学長を務める細井裕司教授は、『医学を基礎とするまちづくり(Medicine-Based Town、MBT)』という概念を提唱している。これは都市設計と住宅、情報システムなどと医療を結びつけようという概念で、住宅の中から都市全体に至るまで、医療行為を様々な形で環境に埋め込むことが検討されている」。

どの分野で働いていようと、本書は今後の航海の羅針盤としての役割を果たしてくれることだろう。