君は「国民主権・平和主義・基本的人権の尊重」を捨てたいのか、守りたいのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(603)】
散策中、心ゆくまで、イロハモミジ、モミジバフウ、コナラの紅葉を楽しみました。イチョウの黄色い落ち葉が絨毯のようです。ほとんど葉を落としたスズカケが佇んでいます。ハクモクレンがヴェルヴェットのような手触りの蕾をたくさん付けています。ユズの実が黄色く色づいています。キンカンの実が黄色く色づき始めています。因みに、本日の歩数は10,366でした。
閑話休題、メディアでほとんど取り上げられない日本会議のことを知りたいと思い、『日本会議 戦前回帰への情念』(山崎雅弘著、集英社新書)を手にしました。
「日本会議の『肉体』――人脈と組織の系譜」の章では、どんな人々が、いかなる目的でこの団体を創設したのか、そして日本会議とその前身組織が、どんな政治活動を今までに行ってきたのかが辿られています。
「1945年の敗戦後に占領軍(GHQ)によって絶ち切られたかに見えた国家神道と国体(天皇が統治する国家体制)思想が、神社本庁から日本会議へと連なる『保守系』の政治運動によって保守思想の一種として生き延び、それが安倍政権誕生と共に、再び国政の場へと大きな影響を及ぼしている状況を詳しく説明しました」。
「日本会議の『精神』――戦前・戦中を手本とする価値観」の章では、日本会議に参集した人々が共有する政治思想や歴史認識、彼らが日本会議の活動を通じて実現を目指す「あるべき日本の姿」とは何なのかが明らかにされています。
「安倍首相やその支持勢力である日本会議の論客は、しばしば『(失われた)日本を取り戻す』という言葉を口にします。・・・安倍首相と日本会議が『取り戻したい』と考えるところの『輝かしい日本』とは、昭和初期の日本、戦前・戦中の日本であるという以外の『答え』を導き出すことは困難です。言い換えれば、安倍首相と日本会議は、1945年の敗戦で停止した『国家神道体制下での時計の針』を再び動くようにして、戦前・戦中の日本と現代の日本を、ひとつながりの時間軸として連結することを目指しているようにも見えます」。
「安倍政権が目指す方向性――教育・家族・歴史認識・靖国神社」の章では、安倍政権下で進められている政策――●「愛国」「道徳」という名の政治教育、●「家庭への帰属」から「国家への帰属」への回帰、●大東亜戦争の肯定、●「国に殉じた英霊」の理想化――が具体的に示されています。
「日本会議はなぜ『日本国憲法』を憎むのか――改憲への情念」の章では、安倍首相と日本会議がなぜ、憲法改正というテーマにこれほど大きな熱意を注ぐのかが剔抉されています。
「神社本庁やその流れを汲む日本会議などの政治勢力にとって、日本国憲法とは、日本を再び戦前・戦中と同様の価値観を持つ国家神道体制の国に戻せないよう、頑強に巻き付けられた鎖とそれを留める『錠前』のような存在です。それを叩き壊さない限り、戦前・戦中の国家体制への回帰は、実現することができません。安倍首相や日本会議の論客が、戦後の日本社会の繁栄という事実にもかかわらず、日本国憲法の『良いところ』に一切目を向けない理由もここにあります。一部でも『良いところ』を認めて評価すれば、力ずくで叩き壊すことができなくなってしまいます」。
「(日本会議の副会長は)国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という戦後日本の社会で尊重されてきた価値を『虚妄』と断じ、憲法改正の議論ではこの三原則は考慮する必要がないと論じています。その理由は、西洋の思想や哲学は日本の伝統思想とはまったく相容れないから、というものです」。
本書は、日本会議の活動に反対の人にとっても、賛成の人にとっても必読の書と言えるでしょう。